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若年層にも広がる新しい肝炎「NASH」を予防・抑制

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

若年層にも広がる新しい肝炎「NASH」を予防・抑制

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アスタキサンチンとNASH  ■「アスタキサンチン」金沢大グループが臨床試験

 過度の飲酒習慣がなく、ウイルスにも感染しないで発症する新しい肝炎「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」が中高年だけでなく、若年層の間でも広がってきている。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や肥満を主な原因とするが、決定的な治療薬はまだない。こうした中、サケの身の赤い色素「アスタキサンチン」の予防効果に着目した臨床試験が行われ、注目が集まっている。(山本雅人)

 脂肪たまりにくく

 研究を実施しているのは、金沢大学・脳肝インターフェースメディシン研究センターの太田嗣人准教授のグループだ。同グループは平成22~25年、NASHを引き起こす高コレステロールの餌をマウスに3カ月間与え、高コレステの餌にアスタキサンチンを混ぜて与えたグループと比較した。その結果、アスタキサンチンを混ぜたグループは、混ぜないグループに比べて肝組織中の中性脂肪の量が40~50%少なく、脂肪肝になりにくいことが判明した。

 次に、NASHを発症させたマウスに対し、餌をアスタキサンチンを混ぜたものに切り替えたところ、肝硬変につながる組織の炎症や線維化が改善しているのも確認された。太田准教授は「アスタキサンチンは脂肪蓄積を抑える可能性を示した。また、NASHの予防だけでなく、その症状の抑制効果も期待できることが分かった」と分析する。

 マウスでの研究に続き、同グループはNASHやその一歩手前の患者40人に対し、アスタキサンチンのサプリメントを6カ月間飲んでもらい、NASHの予防・抑制効果があるかどうかを調べる臨床試験を実施した。26年3月までに終了し、現在、データ解析を行っている。一連の研究はアスタキサンチンを製造・供給する富士化学工業(富山県上市町)と共同で進められている。

 サケ由来の成分

 NASHは飽食で便利な現代特有の病気だが、治療薬の開発が追いついていない。太田准教授は「細胞の炎症を抑える薬をNASHの患者に投与しても効果がなかなか得られない。摂取した食物は必ず肝臓を通ることから、天然由来の食品で予防・改善ができないかと探した」と話す。

 さまざまな食品を調べたところ、「NASHの発症には脂肪蓄積が原因の活性酸素過剰発生による酸化ストレスがあり、それを防ぐにはアスタキサンチンが有効なのではないかと思った」。アスタキサンチンには一般の食品に比べ、非常に高い抗酸化力があるとされるからだ。

 アスタキサンチンが含まれる代表例にサケやカニ、エビがある。サケは産卵で川を遡上(そじょう)する際の筋肉疲労をアスタキサンチンによって回復しているとされる。人間がこの効果を得ようとすれば、サケを毎日、大量に食べなければならないことが分かっており、天然原料のサプリで効率よく摂取する方法もある。

 太田准教授は「改善を目指してアスタキサンチンだけに頼るのはよくない。メタボという初期の段階で高カロリーの食事の見直しや運動療法が大切」と呼び掛けている。

 ■食の欧米化で増え続け、患者数は推定200万人

 食の欧米化によるメタボの増加と並行するようにNASHが増え続け、健診データなどから患者数は現在、200万人程度と推定されている。

 NASHは、治療せずに進行した場合、5~10年後に肝硬変、さらには肝がんに移行するリスクが指摘されている。初期の段階では自覚症状がほとんどないため、メタボと診断されたら深刻に受け止め、NASHに発展しないよう予防に努めることが重要となる。

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