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「はんだ付け」は誇るべき技術 教材ヒット、ソニーやパナソニックなども関心
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はんだ付けでできた「カニ」 機械部品などのもの作りに欠かせない「はんだ付け」の普及や技術向上に取り組む中小企業のオーナーがいる。滋賀県東近江市の精密機器メーカー「ノセ精機」社長の野瀬昌治さん(48)。伝統の技術を受け継ぐ方法が確立されていない点に目を付け、“独学”で勉強を重ね「はんだ付け協会」を設立。検定制度も創設して技術の“体系化”に努める。最近はアート制作にも応用するなど、はんだ付けの可能性を広げている。(和野康宏)
直径0・8ミリ、針金状の「はんだ」を長さ5センチに4本切り分ける。このうちの1本に「はんだごて」を当て、丸いふくらみを3つ、串団子のように作る。これが頭と胸、腹になる。
あとの3本は「へ」の字に曲げ、先ほど作った串団子の真ん中のふくらみに、はんだごてでくっつける。ニッパーで微妙な曲線を付けると6本の脚になった。
さらに細い直径0・3ミリのはんだで、あごや触角を作り、頭部に添えると「アリ」のできあがり。見事な腕を披露してくれた野瀬さん。このほかトンボやカエルなど、はんだ付けによるさまざまなアート作品がある。
はんだ付けとは、鉛とスズでできた「はんだ」を熱で溶かして固めることで接着剤のように使い、電子部品と基板などを接合させる技術。接合させる物自体は溶かすことなく、接合部を再加熱すれば修正が可能なため、溶接などとは異なるメリットを持つ。
野瀬さんがはんだ付けに関心を持つようになったのは、ある出来事がきっかけだった。
ノセ精機で専務だった平成12年。小型の光センサーを納めていた取引先から突然、納品打ち切りの連絡を受けた。人件費が安い中国の企業に発注する、というのだ。
当時、この製品を1日3万個出荷し、年間で1億5千万円を売り上げていただけに、思い直してもらうよう交渉したが、抵抗もむなしく2年後に受注がゼロになった。
これまでは取引先の言うがまま、納期と品質を守っていればよかった。だが、契約が打ち切られて新たな「食い扶持」探しに迫られ、「ネズミ捕獲シート」の製造など本業と関係ない分野にも手を伸ばしたが、売り上げはかつての10分の1に落ち込んだ。
方向性が見いだせないまま2年近くが過ぎた16年のこと。事務所の棚にあった赤いファイルが目に留まった。光センサーを出荷していた当時のクレームをまとめた資料だった。
「はんだ付けを忘れている」「はんだがなじんでおらず、すぐ部品が外れる」
読み進めると、すべてはんだ付けに関する苦情だった。はんだ付けの重要さと技術の未熟さを思い知らされた。
やがて、少しずつ電子部品の受注が増え、はんだ付け要員を1人雇うことにした。素人にはんだ付けの技術を教える必要に迫られ、中学校の「技術」の教科書を引っ張り出してみたが、お粗末な記述で温度に関する言及などもなくとても使えない。書店や図書館、インターネット上で探してみても、適当な教材は見つからなかった。
「それなら、自分で作ってやろう」
はんだ付けに関し、もともとそれなりの心得はあったが、これを機に徹底的に突き詰めた。そしてその年末、はんだ付けの手順を詳しく解説し、画像を付けてネット上で公開。すると、連日、企業や個人から問い合わせが殺到した。
「ステンレスにはんだ付けしたい」「どんな道具をそろえればいいのですか」。世の中には、はんだ付けの知識を得る手段がなく、困っている人たちが多かったのだと実感した。
「これは商売になる」。そう思い立ち、ネットに公開したコンテンツを基に教材用のはんだ付けDVDを製作。翌17年春に販売を始めたところ、狙いは的中。ソニーやパナソニックなど大手電機メーカーからの引き合いもあるなど、年間600万円を売り上げるヒット商品になった。
電機・電子機器製造に不可欠の根幹技術でありながら、普及や教育がなおざりになっている-。教材を販売する中でそんな思いを強くした21年、「日本はんだ付け協会」を設立し理事長に就くとともに、はんだ付けの検定制度を創設した。
製造業などでは不可欠のはんだ付けは当然、大きな企業や工場で昔から使われてきたが、意外にも“一般的な技術”としては浸透していなかった。
「はんだ付けのような基本技術は職場内で受け継ぐものだったので、当時は教材らしい教材がなかったのではないか」。教材製作を手掛けたころをそう振り返った野瀬さん。「この10年、企業は人を切ることばかりを考え、育てることがおろそかになったため、はんだ付けなども中で教育するより、外部の教材を使う時代になったのかもしれない」と話す。
しかし最近は、技術を伝えようという動きが広がりつつある。大手電子部品メーカー「村田製作所」(京都府長岡京市)は、子供たちに科学やもの作りの面白さを教えようと、小学校高学年を対象に「電子工作教室」を20年から開催し、はんだ付けも教えている。
参加者からは、「今後もはんだを使って電子回路を作りたい」など、はんだ付けを詳しく知りたいとの要望も多く、2年前から自社のウェブサイト上に「はんだ付け」のコーナーを開設。子供向けに、はんだ付けの基本や方法などを詳しく解説している。
「はんだ付けの技術を正しく伝えるものが、増えているのは喜ばしい」。野瀬さんもこうした動きを歓迎する。
技術だけでなく、利用法も広がりをみせる。野瀬さんにある時、東京の男性から「はんだ付けが趣味で、こんなものを作りました」と、はんだだけで作った昆虫のオブジェの画像が送られてきた。それは精巧にできたアート作品だった。
こんなこともできるんだ-。作品にはんだ付けの新たな可能性を見いだし、25年からは「はんだ付けアートコンテスト」も始めた。
「地味なイメージの強い『はんだ付け』だが、誇るべき技術として、何とかメジャーな存在にしたい」。野瀬さんはそう願っている。