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温泉、湖…国内に多い火山地域の観光地 事前にリスク情報収集を
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地域には温泉や湖など人気の観光地が多く、旅行前の情報収集が大切だ=5月29日(鈴木健児撮影) 鹿児島県の口永良部(くちのえらぶ)島の新岳(しんだけ)の爆発的噴火では、過去の経験を踏まえて安全対策が取られ、一人の犠牲者も出なかった。しかし、国内には箱根山や富士山など観光地として人気の火山が多く、旅行の途中で災害に巻き込まれる可能性もある。事前に火山の状況や避難場所などの情報を収集しておけば、いざというときに落ち着いて行動することができる。(村島有紀、油原聡子)
温泉や過去の噴火でできたカルデラ湖など観光資源が多い火山地域は、多くの旅行者が訪れる身近な場所だ。「災害は身近で起こると理解することが大切。出発前と到着後には必ず火山情報の収集を」。JTB総合研究所観光危機管理研究室の河野まゆ子主任研究員はこう話す。
国内の火山の活動状況や噴火警報・予報の最新情報が気象庁のホームページ(HP)に掲載されるほか、現地の観光協会などでもHPで火山情報を発信している。
各地の自治体のハザードマップが確認できる国土交通省のポータルサイトもある。栃木県の那須岳など、噴火の前兆現象などを解説した火山防災マップを地元の自治体がHPに掲載している地域もあり、出発前に入手できる。
登山をする場合には、ルートなどを記載した登山届を現地の警察署に提出しておけば万が一、被災したときに捜索の手がかりとなる。戦後最悪の火山災害となった昨秋の御嶽山(おんたけさん)の噴火では、登山届を出していない登山客が大半で、被害の全体像の把握が難しかった。御嶽山のような突然の噴火の可能性も踏まえ、山小屋などの避難場所も確認しておけば安心だ。
また、火山地域にいる間は、注意を促す立て看板や防災無線によるアナウンスに留意する必要がある。「旅行を楽しんでいるときは、リスクに関する情報を見落としがち。知識があれば安心して楽しく旅行ができるはず」と河野さん。
登山の際には、火山ガスが発生するリスクもある。毒性の強い硫化水素などが含まれ、空気よりも重いため、風通しの悪いくぼ地に集まりやすい。気象庁によると、20世紀以降の世界の火山災害では、計1900人が火山ガスが原因で亡くなっている。国内では平成9年、八甲田山で訓練中の自衛隊員3人が火山ガスにより死亡する被害が出ている。こうした過去の噴火や被害も、同庁のHPなどで確認できる。
防災科学技術研究所(茨城県つくば市)の地震火山防災研究ユニットの棚田俊收・副ユニット長は「過去に火山ガスによる被害が起きた山かどうかを、事前に調べてから登山を」と注意を喚起する。
登山をしない場合も気を付けたいのが、火口から数キロ以上離れた地域まで広範囲に影響を及ぼす火山灰だ。
火山灰には、マグマが冷えて粒子化したものや鉱物も含まれる。とがった粒子もあるため、目に入ると眼球を傷つけやすい。鼻やのどから吸い込むことで、鼻の粘膜や気管支、肺に影響する可能性もある。
呼吸器疾患に詳しい神奈川県立循環器呼吸器病センター(横浜市金沢区)の小倉高志副院長は「過度に心配する必要はないが、ぜんそくなど気管支系の症状を悪化させる場合もある。多く吸い込まないようにマスクをするなどの自衛を。コンタクトレンズを付けている人は眼鏡にし、目に入ったときには洗うなどの対策を」とアドバイスする。
口永良部島の噴火を契機に、個人でできる対策への関心も高まっている。家庭向けの噴火・火山灰対策用品販売サイト「噴火.com(ドットコム)」では、火山灰用のゴーグルやマスクの売れ行きが伸びている。1日3~4件の注文だったのが、噴火に加え、小笠原諸島沖で地震が発生し、富士山の噴火も心配する人が増えて1日30件以上の注文が入ったことも。運営会社「シーノン」(東京都品川区)の上地忍代表は「噴火の場合は、降灰などで長期間の対策が必要になる。自分で身を守る意識が高まってきた」と話している。