試乗スケッチ

世界一加速の鋭い量産車? その答えはスーパーカーではなくモデルSだ

木下隆之
木下隆之

 モーターならスリップ制御にもメリット

 つまり、それがEVの凄さである。驚くほど多くのリチウムイオンバッテリーを床に敷き詰め、前後に強力なモーターを積むモデルSは、EVならではの特性を発揮する。モーターは回転を始めるその瞬間から最大トルクを炸裂させる。ガソリンを燃焼させることでパワーを得る内燃機関は、高回転、高負荷を得意とするものの、発進のその瞬間は本来得意とする領域ではない。低回転、低負荷を苦手としているのだ。発進してから速度が高まるまでが鈍いのである。モデルSが0-100km/hでガソリンエンジンを置き去りにするのはそれが理由だ。

 しかも、発進の際のスリップを緻密に制御するトラクションコントロールにもメリットがある。タイヤを絶妙なスリップ率15%付近でスタートさせるには、駆動輪に高性能なスリップセンサーを組み込み、最適なパワーコントロールをする必要がある。その点でも、燃焼を制御してからドライブシャフトやプロペラシャフトを経由してタイヤの空転を制御するガソリンエンジンより、ほぼ直接モーターが駆動輪と連結し、緻密な反応を示すモーターの方が有利なのである。

 常軌を逸した加速力

 実際にモデルSでフル加速に挑むと、常軌を逸した加速を披露する。アクセルペダルを床まで踏み込んだ瞬間に、強烈な加速Gが炸裂する。どんなに身構えても、首はヘッドレストに叩きつけられる。もし助手席に人がいたのならば、あらかじめ加速することを伝えてからでなければ怪我をするかもしれない。少なくとも吐き気をもよおす。空母からカタパルトで発艦する戦闘機の加速よりも初速は鋭いのだろうと想像するほどだ。

 それでいてモデルSは、5名乗車で旅行に行くこともたやすいし、知人を送迎することだってこなす。おとなしいセダンなのである。

 テスラの創業者である鬼才イーロン・マスクは、内燃機関を墓場に叩き込むと鼻息が荒い。モデルSにそこまでの加速が必要か否かの議論はともかく、打倒ガソリンエンジンへの挑戦状であることに間違いはない。

木下隆之(きのした・たかゆき)
木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】こちらからどうぞ。

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