宇宙開発のボラティリティ

宇宙のナゾ解明は、1960年代の「偶然」から始まった

鈴木喜生
鈴木喜生

史上初のブラックホール候補

 宇宙から謎の高エネルギー電磁波が降り注いでいることがヴェラ衛星のデータによって判明すると、各国は天文観測衛星を本格的に打ち上げはじめます。その先陣を切ったのが、1970年12月にNASAが打ち上げた世界初のX線観測衛星「SAS-A ウフル」です。

 ウフルは、軌道上から全天をスキャンすることにより、X線の発生源をマッピングし、その結果、強烈なX線を放射する発生源を宇宙空間に339個発見しました。その後、はくちょう座にある青色超巨星を重点的に観測しました。

 この恒星は、ペアとなるもうひとつの恒星との共通の重心を周る「連星(双子星)」なのですが、その相手が見つかっていませんでした。太陽の30倍もの質量を持ちながら、操られるかのように奇妙な軌道を描くからには、その見えない相手はさらに大きな質量を持っていると予想されました。つまり、そのペアである天体は、ブラックホールである可能性が高いわけです。

 ウフルは、その見えない相手(主星)がいると予想される領域から、X線が放射されていることを割り出します。結果、これが史上はじめて特定されたブラックホールの有力候補であり、それは後日、「はくちょう座X-1」と命名されました。

 宇宙マイクロ波背景放射やガンマ線バーストなど、人類にとって未知であった電磁波を偶発的に捕捉してから半世紀が経過したいま、2019年にはブラックホールの撮影にも成功し、2021年はブラックホールのマップ作製も行われています。

 また、宇宙マイクロ波背景放射の観測によって、宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功しています。その構成要素のうち、我々が認識できる物質はたったの5%未満であり、23%が暗黒物質、73%が暗黒エネルギーであることが判明しました。ただし、暗黒物質も暗黒エネルギーも、その正体はいまだ謎のままです。

 宇宙には人類が解明できていない謎が数多く残されています。しかし、この半世紀で我々人類が知りえた知識とその驚異的な研究スピードを考えれば、その謎が解き明かされる日はそれほど遠くないに違いありません。

出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング