教育・子育て

大阪府立支援学校で不適切な設備 転用校舎で遠くなる子供の安全

 知的障害のある子供が通う大阪府立東淀川支援学校(大阪市東淀川区)で、児童の手が届かない高さの洗面台や、狭くて介助が困難なトイレなど不適切な設備が問題になっている。平成28年度に大阪市から府に移管された特別支援学校で、府教育庁は保護者の訴えを受け、この春休みにようやくトイレの改修に着手。だが施設の不備は多岐にわたり、抜本的な解決にはほど遠い状況だ。(藤井沙織)

 「地域の学校ではなく支援学校に子供を入れたのに、安全安心な環境ではなかった。余分な心配が増え先生の負担も大きい」。東淀川支援学校の卒業生の保護者(49)は、同校の様子をこう振り返る。

 知的障害のある子供が通う支援学校の多くは、手洗いの習慣を身につけるため教室内に手洗い場がある。小学部~高等部の児童生徒約250人が在籍する同校にも設置されているが、洗面台の高さは約80センチで、家庭などにあるものと同じ。「低学年の児童には届かないので踏み台を使う」と女性教諭。転倒のリスクが高まることにもなるが、廊下などにある手洗い場も同様の高さだ。

 排泄(はいせつ)に手助けが必要な子供もいるが、個室トイレの多くは教員が一緒に入って介助できない狭さ。他にも、教室と廊下の段差を埋めるスロープの傾斜が急で、車いすでは自力で上れなかったり、プールの水深が深かったりと問題はさまざま。昨春に他の支援学校から着任した太田正義校長は設備の至らなさに驚き、府教育庁に不備を指摘したという。

 中学校の校舎を転用

 同校の校舎はもともと、大阪市立中学校だった。再編整備で25年度末に中学校が別の校舎に移転したため、大阪市教育委員会がもとの校舎を活用し、27年度に支援学校を開校。こうした統廃合などによる空き校舎の転用は、支援学校の在籍者数の増加による教室不足を解消するため、多くの自治体で行われている。

 転用には、介助のできるトイレの設置などバリアフリー化のための大規模な改修を要することが多く、文部科学省が補助金を出している。同市教委も補助金を活用し、スプリンクラーの設置やトイレの洋式化など約7億円かけて「当時、必要と判断した改修をした」(市教委施設整備課)という。だが現実はバリアフリーとは言い難かった。

 新設校の説明会きっかけ

 27年度まで市教委が所管していた同校は、28年度に府教育庁に移管された。府教育庁は同校の要望でエアコンの増設や職員室のインターネット環境の整備を実施したが、バリアフリー化のための改修には至らなかった。他の府立学校で老朽化による壁の崩落などがあり、「危険に直結する問題、現場の工夫で解決できない問題を優先してきた」と担当者は弁明する。

 府教育庁はこの春休みにトイレの改修に着手。その最大の要因となったのは、昨夏に行われた令和6年度に開校予定の支援学校の説明会だった。出席した保護者が、府教育庁の職員に同校の環境面の不備を主張。支援教育課が現地を視察し、大きな問題があると判断した。今後も必要な改修を行う方針だが、担当者はこう打ち明ける。「完全なバリアフリー化には建て替えと同規模の改修が必要。長期休暇だけでは正直、間に合わない」

 文科省の整備指針、実現は「自治体の意識次第」

 特別支援学校の適切な教育環境を確保するため、文部科学省は「特別支援学校施設整備指針」で安全面や指導上の観点からの留意事項を自治体に示している。

 施設のバリアフリー対応では、「児童生徒や教員らが安全かつ円滑に学校生活を送れる」ように計画することが重要とし、教室、更衣室、トイレなど設備ごとに留意点を記載。例えばトイレは、障害特性を考慮して使いやすく、介助しやすいことが重要▽低学年の場合は教室に近接または隣接していることが望ましい-などとする。小中高校とは設備が大きく異なるため、大阪府教育庁は「既存の府立高を支援学校に転用する場合、室内は全面的に改修する」としている。

 ただ指針に法的拘束力はなく、「実際にどんな設備にするかは自治体の意識次第」と文科省。自治体が学校に転用できる土地が限られる中、今後も校舎の改修による支援学校の設置は増える見通しで、同省は「指針を活用し、教育の場にふさわしい環境がつくられることを願う」としている。

 □空き校舎の特別支援学校への転用 特別支援学校の入学希望者が増加傾向にあり、これによって生じた教室不足を解消するため、小中高校の統廃合で空いた校舎を転用するケースが増えている。文部科学省による改修費の補助は従来3分の1だったが、教室の増設を促すために令和2~6年度は2分の1に引き上げられた。

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