宇宙開発のボラティリティ

民間人の宇宙旅行が激増 「儲かる」宇宙ビジネスをめぐる米露の思惑

鈴木喜生
鈴木喜生

 創業者でありCEOのマイケル・サフレディーニ氏は、かつてはISSのプログラム・マネージャーを務めていた人物。また、AX-1でISSへ赴く副社長のアレグリア氏は、宇宙飛行士としてISSに4回滞在、ISS司令官も務めた経験がある、ISSのスペシャリストです。

「史上初」は逃したが、トム・クルーズも2022年にISSへ

 2020年9月、トム・クルーズ氏がISSへ行くことが大々的に報じられました。つまり、先述の「AX-1」に当初はトム・クルーズ氏が搭乗する予定で、そこで史上初の「宇宙ロケ」が行われるはずだったのです。

 しかし、同氏のスケジュール調整がつかなかったようで、クルーズ氏は現時点で、2022年11月打ち上げ予定の「AX-2」への搭乗が予想されています。結果、「史上初の宇宙ロケ」は先述したロシアチーム(MS-19)に先を越されることになり、その計画はインポッシブルとなりました。

 宇宙関連サイト「Space Shuttle Almanac」によると、AX-2に搭乗するのはトム・クルーズ氏と、映画プロデューサーのダグ・リーマン氏であり、残るもう一席はいまだ未定とのこと。2020年3月に公表された募集時点での1席の料金は5500万ドル(59億4000万円、当時レートにて計算)と報じられています。

なぜいま民間人のフライトが激増しているのか?

 宇宙へ赴く民間人を、ロスコスモスやNASAでは「宇宙飛行参加者(spaceflight participant)」と呼称し、正規の宇宙飛行士とは区別しています。

 元TBSジャーナリスト秋山豊寛氏は、史上初の商用宇宙飛行によってソユーズ(往路TM-11、復路TM-10)に搭乗して宇宙ステーション「ミール」に滞在しましたが、秋山氏の場合は「宇宙飛行士」の資格を取得していたため宇宙飛行参加者には含まれず、また、TBSによる出資であったので、自己資金によるプライベートフライトでもありませんでした。

 真に、自己資金による最初の宇宙飛行参加者は、デニス・チトー氏(米国)です。NASA(JPL:ジェット推進研究所)の科学者だったデニス氏は、宇宙機の軌道計算に用いられる手法を金融市場分析に活かして財を成し、その資金をもとに2001年、ソユーズ(往路TM-32、復路TM-31)でISSを訪れ、8日間の宇宙旅行を果たしました。

 これまでにチトー氏を含め計7名(うち1名は2回)が自己資金による宇宙旅行を実現していますが、そのすべてのツアーをコーディネートしたのは米国の宇宙旅行代理店「スペース・アドベンチャーズ」で、今回、前澤氏をエスコートするのも同社です。

 スペースシャトルが2011年に退役して以降、有人宇宙飛行はソユーズ宇宙船だけに依存していたため、そのあらゆるサービスはロシアの独壇場となり、契約金も高騰していました。

 しかし、昨年11月からスペースX社のクルー・ドラゴンが正式運用されると、米国による人員輸送能力が向上。ソユーズの定員が3名なのに対し、クルー・ドラゴンの最大定員は7名で、さらに、2022年にボーイング社の新型有人宇宙船「スターライナー」の正式運用が開始されれば、ソユーズの存在価値のさらなる低下は避けられません。

 経済的に厳しい状態にあるロシアならびにロスコスモスとしては、正規クルーの数を減らしてでも民間宇宙旅行サービスによって外貨を稼ぐ必要に迫られている感があり、そうしたロシアの財政事情と、米国民間企業による宇宙サービスの躍進が、「金さえあれば誰でも宇宙へ行ける」という状況を、さらに推し進めると予想されます。

ジェフ・ベゾスも「初」の一席をオークションで募集中

 イーロン・マスク氏のスペースX社が華々しく活躍する一方で、少々焦り始めているのがアマゾンの創設者ジェフ・ベゾス氏です。

 ベゾス氏が率いるブルー・オリジン社は観光用宇宙船「ニューシェパード」を開発中で、これまでに数多くの無人テスト飛行を重ねてきました。そしてついに今年7月20日、その有人テストフライトが初めて行われるのですが、なんと現在、その座席1席がオンライン・オークションで販売されていています。入札は、当記事がアップされる5月19日(水曜)まで可能です

 有人テストフライトが完了していない状態から座席を販売し、そのフライトに一般人を有料で乗せるというこの事態。かなりスリリングではありますが、考えようによっては究極の体験とも言えます。

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