宇宙開発のボラティリティ

「どこに落ちるか分からない」中国ロケット、米国の非難は妥当なのか

鈴木喜生
鈴木喜生

中国いわく「西側の誇張した報道」

 第一段ロケットを自然落下させることに関して中国は、決して特殊な方法ではなく、どの国もやってきたことだと主張しています。第一段ロケットのほとんどは燃え尽き、人的被害を出す可能性は極めて低く、世界がパニックを引き起こすような誇大な報道するのは西側諸国のいつもの手口だ、と非難しています。

 結果、残骸の一部はインド洋に落下しました。燃え残ったパーツの質量はわかっていません。

 たしかに、ある一時期まで宇宙機の自然落下は一般的でした。比較的質量の少ない第二段ロケットや、低軌道にある人工衛星などは自然落下に任せ、大気圏に再突入させて燃やしていたのです。

 しかし、今回の第一段ロケットのように、全長30m、直径5mものサイズの、とくに燃えづらいエンジンやタンクを搭載した大型ロケットが、無制御で落下する事態は特殊です。実際、2020年5月には、今回とまったく同型の長征5号Bの残骸が西アフリカのコートジボワールに落下し、複数の家屋に被害を出したと報道されています。

かつては米ソも、世界を恐怖に陥れた

 かつて米国は、制御できなくなった無人の宇宙ステーション「スカイラブ」を無制御で大気圏に再突入させ、その残骸がオーストラリアに落下していますが(1979年)、その本体質量は今回の長征5号Bの第一段の3倍ありました。また旧ソ連は、同じく無人の宇宙ステーション「サリュート7」を1991年に無制御で落としていますが、その本体は長征5号Bと同等の質量があり、どちらも世界を恐怖に陥れました。

 米ソ・ロシアなどは、こうした事故の反省から、現在においては厳密な制御落下を行っており、それは地上の安全だけでなく、スペース・デブリの低減のためにも重要なことだとしています。今回、中国を非難している論旨も、主にはこの点からです。

 一方で今年3月、スペースX社のファルコン9の第二段ロケットにおいて、軌道離脱のための逆噴射が正常に行われず、その部品が米ワシントン州の農場に落下しています。その事故が大きく報道されていないこともあり中国は今回の件を「誇大報道」と指摘しているのです。

前時代の所業を「棚上げ」する米国

 いま宇宙空間を漂うデブリは、10cm以上のものだけで3万4000個、さらに微小なものを含めると1億3000万個とも言われています。その多くをばらまいたのは米ソ・ロシアです。

 かつて米国はF-15からミサイル(ASM-135)を打って自国衛星を破壊し、デブリを拡散しています。同様の実験は旧ソ連、インド、そして中国も行ってきました。

 そうした前時代の所業を棚に上げる欧米諸国に、「我々の意識は現在さらに高いところにある」、「宇宙開発後進国である中国はさらにリテラシーを上げるべきだ」と指摘されても、中国としては素直に受け入れがたいものがあるでしょう。また、中国が主張するように、今回の西側による報道は、落下の危険を世界に警告するアラートである一方で、中国に対する圧力が多分に介在していることも否めません。

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