実は火傷しそうに“熱い”ハッチバック
だが一方で、スポーティな走りにも手抜かりはない。その象徴がこの「Rライン」である。こちらは直列3気筒ではなく、直列4気筒。1リッターではなく1.5リッターターボエンジンを搭載。やはり同様に48Vスタータージェネレーターが合体されており、ひときわ力強い走り方をする。最高出力は150ps。タイヤは225/45R17インチまで拡大されている。直列3気筒1リッターモデルに比較して車高も下げられており、あからさまに走りのモデルであることを主張しているのだ。
驚くのは、リアサスペンションも専用になっていることだ。1リッターモデルがシンプルなトーションビーム式のサスペンションであるのに対して、Rラインには凝ったマルチリングサスペンションに換装されている。動力性能に合わせてダンパーやスプリングのセットを変えるのは常識だが、サスペンションの型式まで改めるのは稀である。ゴルフのエントリーモデルとこのRラインのパワー差はわずか40馬力の違いでしかないのに、新たにサスペンションを設計し直すほど、走りの質を追い求めているのだ。
この手のコンパクトハッチバックボディでありながら走りの性能を追求したモデルを、親しみを込めて「ホットハッチ」と呼ぶ。まさにRラインは火傷しそうに熱いハッチバック、ホットハッチなのだ。
ただし、それだけでは済まないからゴルフは奥深い。まだ正式なアナウンスはないから想像の範疇であることをお許し願いたいが、ゴルフはこれまでの実績からして、さらにパフォーマンスの優れたマシンを投入するに違いないのだ。
骨格とパワーユニットを流用する二卵性双生児の「アウディA3」には、190psを発揮する直列4気筒2リッターターボがある。そのエンジンを移植するであろうことは想像に難くない。さらに期待するならば310psまで出力を高めた「アウディS3」も二卵性双生児の関係にある。つまり、いますぐにでも310ps仕様のゴルフを走らせることは可能なのである。
その名が伝統的な「GTI」になるのか「R」になるのか、あるいは「R32」となるのかは不明だが、おそらく“激辛ホットハッチ”をリリースする可能性は高い。
そう、ゴルフは日常に優しく寄り添うコンパクトなハッチバックであり、一方で過激なスポーツモデルでもある。好む守備範囲の広さがゴルフを「世界の国民車」といわしめる理由であろう。そしてその可能性をこのゴルフRラインが証明しているように思う。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。