なぜミッドシップになったのか?
ただ、日本上陸を果たした新型コルベットをドライブしてみて印象が激変した。たしかに駆動方式はFRからMRに変わっている。新しいスタイルも馴染むには時間がかかりそうだが、走り味は伝統的なコルベットの面影を残している。容姿は変わっても、味わいは変わらないのだ。
まず、搭載するエンジンに変更がないことがあげられる。V型8気筒6.2リッターOHVエンジンであり、ターボチャージャーも組み込まれない。世界的な脱炭素化のなか、自動車の世界ではエンジンのダウンサイジング化が進んでいる。内燃機関の排気量を下げ、それによって失った出力の不足分をターボチャージャーで補う。
そんな手法がセオリーになりつつあるこの時代に、コルベットは6.2リッターのV型8気筒ユニットをそのままに、最高出力502ps、最大トルク637N・mを誇る。名機として名高いLT2型エンジンであり、つまりフロントに押し込んでいたパワーユニットを背中の裏に載せ換えただけに等しい。したがってパワーフィールはこれまでのコルベットのそのものであり、高回転までシュンシュンと吹け上がる。
走り味も同様にコルベットの伝統的なものだった。ミッドシップにしたことで限界域での挙動がシャープになったが、イタリアンスーパーカーがそうであるような神経質な操縦性ではなく、肩の力を抜いてドライブすることができる。
トランスミッションはついにオートマチックではなく8速ツインクラッチ式に。オートマチックのようなイージーなドライブを許容しつつ、電光石火のクイックシフトもこなす。市街地からサーキットまで、通勤通学からレースまで、守備範囲は広い。宗旨替えなどではないのだ。
なぜコルベットがミッドシップになったのか? 答えはモータースポーツにある。GMはこのところ「ル・マン24時間レース」を初めとした欧州型耐久レースに積極的な参戦姿勢を示している。そこでの戦いを有利にするにはミッドシップのほうが都合が良かったのだろう。
そしてそれはコルベットがアメリカの至宝であり続けるだけでは満足できなくなった。欧州制覇も目論んでいるのかもしれないと想像する。
ちなみに新型コルベットは歴史上初の右ハンドルをリリースした。日本でのシェア拡大も期待できる。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。