ヤフーとの顧客獲得競争が終了した
さて、還元ポイントが改悪されるケースには大きく二通りあります。顧客獲得競争の段階が終了した場合と、競争の焦点がそこから違う場所に変わった場合です。
楽天がSPU(スーパーポイントアップ)を始めたのはヤフーとの顧客獲得競争が激化したことがきっかけです。それまでインターネットショッピングの楽天市場と、オークションサイトのヤフオクは市場をすみ分けていたのですが、ヤフオクにショップが出店するなど、だんだん境界があいまいになってきました。
そのときにヤフー側がしかけたのは、楽天市場からヤフーショッピングへの顧客スイッチ戦争です。出店料をゼロにして楽天市場に出店しているお店に対して「ヤフーにも出店してください」とお願いして出店状況を楽天と同じにしたうえで、ソフトバンクユーザーなら買い物のポイント還元が最大20%になるという大盤振る舞いを始めたのです。
それに対抗する形で楽天のポイント還元率も上がったのですが、戦争がある程度進んだ段階で楽天市場からヤフーショッピングへの顧客流出は収まってきます。これはポイント経済圏の特徴です。
楽天カードより「モバイルとペイ」に注力したい
ポイント競争が起きると一定数の顧客はスイッチしていくのですが、そもそも楽天ポイントをたくさん持っていて、顧客としてのランクもプラチナやダイヤモンドになっている顧客は、わざわざスイッチするとこれまで積み上げてきた実績が意味をなさなくなってしまいます。
そのような事情から「もう顧客はこれ以上スイッチしないだろう」と思った段階で、両陣営ともに大盤振る舞いをやめたほうが賢明です。ヤフー陣営は数年前にポイント還元を5%程度引き下げているので、楽天陣営が今、じわじわと還元を下げていくというのは理にかなった作戦だと思います。
楽天の場合、もうひとつ当てはまるのが「競争の焦点が別の場所に移っている」ことです。楽天市場と楽天カードに力を入れるよりも、今の楽天グループの場合、一番力を入れるべきは楽天モバイルであり、その次に楽天ペイです。
そこにお金をつぎ込むためには原資が必要で、そのためには他で費やしているプロモーション投資を節約すべきなのです。今、楽天市場と楽天カードが囲い込んでいるコアユーザーは多少のポイント改悪ぐらいでは楽天離れをしないでしょう。その読みから少しずつ、影響の小さい箇所からポイント改悪を行う。これが冒頭にお話しした最近の状況の背景事情のはずです。
楽天が力を入れているところに行動をシフトする
そして楽天の場合、ポイントを改悪することにはもうひとつ隠れたメリットがあります。上場企業である楽天の会計基準は日本基準ではなくIFRS(国際会計基準)を用いています。難しいところを省いて簡単にいえば、日本基準ならポイント付与は負債を増やすだけで損益に影響しませんが、IFRSだとポイント付与は値引きになって売上が減ってしまいます。ポイント制度を改悪すればその分、国際会計基準では楽天の決算はよくなるのです。
では楽天のヘビーユーザーはどうしたらいいのでしょうか。考え方はシンプルです。今、楽天が一番大盤振る舞いをしているのは楽天モバイルですから、まずは楽天携帯に切り替えたり、iPhoneの上位機種などへ機種変更したりするのが一番お得なはず。そして決済は楽天カードではなくなるべく楽天ペイを使うようにする。そうやって楽天が力を入れているところに行動をシフトしていけば、あいかわらずお得に楽天を使うことができるはず。これが経済学というものです。(経営コンサルタント 鈴木 貴博)
鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。