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経済
G8、経済宣言で「アベノミクス」に一定評価
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英国・北アイルランドで開かれている主要8カ国(G8)首脳会議(ロックアーン・サミット)は6月18日午後(日本時間18日深夜)、多国籍企業の課税逃れを防止するルール作りなどを盛り込んだ首脳宣言を採択し、閉幕。これに先立ち公表された世界経済に関する首脳宣言では、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」に一定の評価を与えた上で、財政再建の道筋を示す中期財政計画をつくる必要性を指摘した。
世界経済については、欧州債務危機が小康状態にあることなどを確認。一方で若年層失業者問題などを指摘し、今後は持続可能な成長と雇用回復に各国が取り組むことを確認した。
また、内戦が続くシリア情勢についても協議され、オバマ米大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談でも主要議題となった。
サミット2日目の18日はテロ対策、グローバル企業による課税逃れ問題を全体で討議。その後、議長国の英デービッド・キャメロン首相(46)が首脳宣言を発表する。宣言には、北朝鮮の核保有は認めないとのメッセージに加え、日本側が求める拉致問題を含めた北朝鮮の人権侵害への懸念にも言及する見通し。
テロ対策では、多数の犠牲者を出したアルジェリア人質事件の背景にあるアフリカの武装勢力や武器流入への対処を重視。テロの温床となる貧困問題への対策強化が重要との認識を共有した。来年のG8はロシア南部ソチで開催される。(ベルファスト 平尾孝/SANKEI EXPRESS)
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≪財政再建の道筋示せ 首相に「宿題」≫
6年ぶりのサミット出席で安倍晋三首相(58)が目指したのは、ただ一つ。自身の経済政策「アベノミクス」に対する国際社会からの“信任”を得ることだった。各国首脳も表向きは首相の野心的な経済政策を賞賛した。ただ、サミットでの議論や首脳たちの発言をつぶさにみると、首相に多くの“宿題”を突きつけていることがわかる。
首相にとって最大の見せ場はサミット初日(日本時間18日未明)のセッション1。「世界経済」をめぐる討議で、アベノミクスの詳細を5分以上にわたってスピーチした。
「日本の経済成長によって、世界の成長に資するような経済をつくっていく」。首相は日本経済が世界経済を引っ張るという決意を高らかに宣言した。
首脳たちの反応は上々だった。「1年前に比べ、日本の状況は格段に良くなった」「財政再建と成長は相反する概念ではない」…。イタリアのエンリコ・レッタ首相からは「経済再生の良きお手本として参考にしたい。アベノミクスについて講演をお願いしたい」と訪問を招請され、直接指導を頼まれる場面もあった。
首相にはこうした発言が必要だった。サミットから帰れば、「親の敵」という表現すら用いて必勝を期す参院選が待ち構える。対する野党は、最近の株価の乱高下を受けてアベノミクスを「国民生活を破壊する毒矢」と批判。首相は、G8首脳のお墨付きを得ることで、こうした批判を振り払おうとした。
しかし、アベノミクスに向けられた賛辞とは裏腹に、国際社会が経済成長のためには大胆な財政出動もいとわない日本の政策にある種の不安を抱いているのも確かだ。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相(58)は安倍首相との個別会談で、「デフレを脱却する必要はよく理解するが、日本は大変な財政赤字を抱えている。そこへの取り組みはどうするのか」と首相に詰め寄った。
世界第3位の経済大国であり先進国で最悪の借金を抱える日本が、金利上昇などによって、財政面でのリスクが高まれば、ギリシャ債務危機以上の、世界的な「経済危機」の引き金ともなる。首相は「財政健全化にはデフレからの脱却が重要だ」と反論したが、財政再建の道筋を示す中期財政計画を具体化していく考えも明らかにした。
アベノミクスをみつめる世界の目はシビアだ。このため、首相はサミットの全体討議で「景気回復などの環境が整えば、消費税率を予定通り引き上げる」と表明した。これまでより踏み込んだ表現で、消費税増税の可能性に言及したのだ。
景気を冷やす可能性もある消費税増税に首相は元来慎重だ。首相は7月想定の参院選が終わるまで消費税増税の判断を封印する方針だが、成長戦略を具現化するための臨時国会を開く今年秋には最終判断を迫られることになる。
そのときを盤石の政権基盤の元で迎えられているのか-。死命を決する夏の参院選はもう目前に迫る。
首相は各国首脳が居並ぶ全体討議の場で、雑念を振り払うように、こう言い切った。
「日本では政治の不安定さが経済を不安定にしていた。これからは政治を安定させていく」
(ベルファスト 赤地真志帆、平尾孝/SANKEI EXPRESS)