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【軍事情勢】「平和に耐えた」将軍たちの防衛大綱
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陸海空3自衛隊の退役将官5人に過日、長時間にわたりレクチャーを賜った。受講を終え、小欄は「何か」を思い出そうとしていた。
レクチャーは、安全保障の研究・政策提言などを行う日本戦略研究フォーラム(JFSS)が立案した国防戦略に関してで、政府が年内策定を目指す、長中期的防衛力整備の指針《防衛計画の大綱》への影響が期待される。自民党も6月11日に安倍晋三首相(58)に素案を提出したが、北朝鮮による核・ミサイル開発を踏まえ策源地(敵基地)攻撃能力保持の検討なども求めており、評価できる内容に仕上がっている。だが、JFSS案は自民党案がカバーしていない部分も少なくなく、JFSS案が反映されれば、大綱の実効性はより高まる。
一方でJFSS案には、周辺の敵性国家に対する政治・外交的配慮が必要ないことから、直接大綱に取り込めない部分もある。ただ、現役時代の経験・反省に立った退役将軍たちの軍事的合理性を外さない主張に、政治は常に自衛官を身近に置き、国家戦略立案や政治決定の過程で公式に地位・任務を与え、戦争・戦闘に備えるべきだと、あらためて実感した。
JFSS案における優れた専門的知見は、予見される戦場の範囲にも端的に表れた。確かに、保守系国防関係議員が抱く国際情勢への見識は深くなっている。中国の海洋当局や海軍による領海・領空侵犯や異常接近が激増している沖縄県・先島諸島(尖閣諸島や宮古・石垣・与那国各島など)の防衛態勢強化を、自民党案が打ち出しているのも見識の表れに他ならない。
しかし、JFSS案は九州南部から台湾東側までの南西諸島全域や長崎県の五島列島/対馬までを作戦対象とする。
説明が必要だ。中国の国際情報週刊紙・国際先駆導報は2010年、中国が海洋進出する際の《9つの出口》を掲載した。出口のうち、5つが日本絡みで、さらに5つのうち4つが南西諸島の間を、1つが対馬近海を突破するコース。JFSS案は《(9ルートは)すべて最近の中国海軍の活動と一致しており、9つの出口を自国のコントロール下に置くことが意図》と分析。《特に南西諸島は、中国にとって死活的に重要で、有事の際少なくとも軍事的に占領ないし無力化が必須》と断じる。
中国にとり南西諸島は、台湾や朝鮮半島での有事に際し来援する可能性のある米空母打撃群を迎え撃つべく、航空・海上優勢獲得に向けた《出城》。同時に、米国を牽制する核ミサイル搭載の戦略原子力潜水艦を潜ませる南シナ海という《聖域を守る壁》でもある。南西諸島の一部でしかない《尖閣諸島は南西諸島を確保または軍事的に無力化するための橋頭堡であり、米国の関与を弱める足掛かり》に過ぎない。
逆説的には《南西諸島を日本が堅守することで、米軍来援を確実にし、日米の反撃においては中国の侵攻を封じ有利に決戦を進めることができる》。そもそも、南西諸島は《日本の政治・経済の核心である太平洋ベルト地帯を守る最初で最後の防護壁》ではないか。
そのために、3自衛隊内部や日米における作戦・運用や組織面での《統合》達成を重大な課題と位置付ける。島嶼奪回も想定するが、戦力増強による抑止と先制・先取を当然ながら優先。従って《島嶼への高速大量海上・空中機動力/輸送力》の飛躍的向上を訴える。中国が動けば北朝鮮も連動する《複合事態対処》も指摘した。斯くなる作戦達成に向け、配備すべき具体的兵器にまで言及し「論」に陥りやすいこの種の提案を「設計図」へと昇華させている。
通底するのは《米国との同盟関係の深化によって防衛力の不備を補完しつつ》、軽視されてきた《骨幹戦力たる打撃力、撃破力の充実》などによる《自分の国は自分の力で守る/主体性を持った強靱な防衛力構築》。3自衛隊の立体的/合理的運用を追究・追求する《統合》マインドの維持と、戦力を最大限発揮できる《統合》体制・態勢整備も《強靱な防衛力構築》への手段として強調している。
もっとも、退役将軍たちに気負いはない。その分、具体的国名=中国を挙げて《武力紛争が何時生起してもおかしくない『危険な10年』に入った》との書きぶりが、現実味をもって迫ってくる。それでいて緊張感と、緊張感をはじき返す熱情にあふれる。冒頭に提起した「何か」が何か、ようやく思い出した。フランス大統領シャルル・ド・ゴール(1890~1970年)が、士官学校卒業式に臨み行った訓示だった。
「軍職とは、時代により評価や地位の変動が激しい職業だ。とりわけ戦時/平時の格差が大きい。戦時は適度に尊重され、平時には過度に軽視される。それだけに、軍職に就く者は悲惨な戦争を戦う勇気とともに、長い平和に耐える勇気が必要となる。平和が続く中、戦争に備え続ける忍耐が必要なのだ」
同感だが、仏陸軍少将だったド・ゴールが、吉田茂首相(1878~1967年)による防衛大学校第1回卒業式(57年)での訓示を知ったのなら、憤激しただろう。
「君達は、決して国民から感謝・歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難・誹謗ばかりの一生かもしれない。しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけ。言葉を換えれば君達が日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ。耐えてもらいたい」
ド・ゴールの訓示とは似て非なる、無礼な内容だ。事ほど左様に、国民の多数がようやく《軍事=悪》という危険な方程式の異常に気付き始めたのは、敵性国家がわが国に、露骨な軍事的恫喝・主権侵害を激化させる比較的最近になってから。5人を含め立案を担任した退役将軍団は、多くの国民がその方程式を“暗記”させられていた時代に青年将校だった。「長い平和に耐え」「戦争に備え続ける忍耐」を涵養してきたのだ。
JFSS案に「忍耐」の“戦果”を見た。(政治部専門委員 野口裕之)