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国際
米欧FTAに早くも難題
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「2国・地域間の貿易協定では史上最大ではないか。どんなほかの協定よりも大きなインパクトをもたらすだろう」
主要8カ国(G8)首脳会議が開かれた北アイルランドのロックアーン。6月17日、デービッド・キャメロン英首相(46)は記者会見で、米国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)の交渉開始を高らかに宣言した。だが、続くジョゼ・バローゾ欧州委員長(57)、バラク・オバマ米大統領(51)のスピーチはより控えめに感じられた。交渉に横たわる問題の解決の重要性を訴える両者は、米欧FTAの抱える厳しさを浮き彫りにした。
以前にもこの欄で取り上げたが、大西洋をまたぐ巨大な通商圏の構築へ向け、いよいよ交渉の号砲が鳴った。米欧の自由貿易の拡大と経済関係の発展に関係者の期待が高まる一方で、米欧FTA交渉は早くも難題に直面している。問題がこじれれば交渉の入り口でつまずきかねない状況だ。
「フランスにとって越えてはならぬ一線だ」
騒動の発端は自国文化に強いプライドを持つフランスのオレリー・フィリペティ文化相(40)の発言だ。フィリペティ文科相は「巨額投資に支えられる米国の映像・音楽産業と、欧州のそれでは比べものにならない」と資金力に物を言わせるハリウッド映画などを皮肉りながら、テレビや映画、音楽などの文化産業が保護されない限りFTA交渉入りを支持しない方針を明言。EU加盟国のうちドイツなど過半数がフランスに追随した。
これを受け、EUの欧州議会は5月23日、「文化と音楽・映像分野」を自由化対象から除くことを条件に、FTA交渉開始を容認する決議を可決した。
EUの欧州委員会は当初は決議に条件をつけることに慎重だった。カレル・デフフト欧州委員(59)=通商担当=は「すでにコンテンツは国境を越えている」とし、文化産業の取り扱いにこだわるあまり交渉を阻げることを懸念していた。しかし、フランスの抵抗で流れが変わった。決議自体に法的拘束力はないが、FTA交渉は最終的に欧州議会の承認を得る必要があるため、欧州議会の意向は強い影響力を持つ。
一方、欧州市場への進出拡大をもくろむハリウッドの映画関係者の声を代弁し、米映画協会(MPAA)の幹部は米通商代表部(USTR)に書簡を送付。「文化の多様性の重要さは認識している」としながらも、FTA交渉にあたり欧州側に留保を認めぬよう米政府に要請し、くぎを刺した。米側は、欧州の一部の国が映画会社に行う補助金などの助成措置も非関税障壁の疑いがあるとみて問題視しているもようだ。
ただ、難題はこれだけではない。国家安全保障局(NSA)など米政府機関がインターネット上などの個人情報を収集していた問題も米欧FTA交渉に影を落としそうな気配だ。
交渉ではIT(情報技術)分野も含めてサービスの幅広い項目が対象になる。米国はIT業界の要望を受け、国境を越えたデータのやりとりの一層の自由化をFTA交渉で協議するよう求めている。
だが、歴史的にドイツをはじめ欧州各国は政府の個人情報収集やプライバシー問題に敏感で、欧州議会のマーティン・シュルツ議長(57)は「大西洋の両岸で高いレベルでの個人情報保護を促進する」とし、FTA交渉でも協議すべきだとの考えを示した。米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)も、「米欧FTAはこれまでも、プライバシーの基準や情報産業をめぐる激しい議論と結びついてきた」と指摘する。
オバマ大統領は「交渉で合意するため厳しい問題から逃げないことが重要」としているが、国境を越えたデータのやりとりの自由化は、日本が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉でも検討される見通しで、今後、幅広い経済連携交渉に波紋を広げそうだ。
米国とEUは8日からFTA交渉の初会合を開く。果たして最初から火花を散らす展開となるのか。注目がされそうだ。(ワシントン支局 柿内公輔(かきうち・こうすけ)/SANKEI EXPRESS)