ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
政治
参院選 成長戦略のメニューを競え
更新
「われわれにとっては初めての体験。どんな顔をしたらいいのかわからないのです」。自民党の石破(いしば)茂幹事長(56)は東京都議会選挙の結果判明後、表情を緩ませたり引き締めたり目まぐるしく変えながら公明党幹部に語ったという。公明党は6回連続の都議選「全勝」だが、自民党が都議選で候補全員が当選したのは初めてのことだ。喜びの一方で、参院選という本戦を控えて、陣営が緩んでしまわないか、有権者の反発を招きはしないかと、不安もよぎったのだろう。
石破氏の懸念をよそに、7月4日に公示された参院選は、先行指標である都議選同様、自民党優勢で推移している。安倍晋三首相(58)は「親の敵」と例えるほど雪辱戦に燃えており、衆参の「ねじれ」解消でリベンジを果たしたい自民、公明両党には勢いがある。
公示を控えた7月3日、日本記者クラブ主催の党首討論会が行われたが、たいした波乱はなかった。アベノミクスの是非、憲法改正、TPP、歴史認識、原発、歴史認識…。はっきりいって、政権再交代が起きた昨年12月の衆院選のときのそれと大きな違いはなかった。民主党をはじめとする野党各党に目を引くような対案、独自の提案がなかったからだ。
アベノミクスは今回の参院選での主要な争点だ。パンや食用油が値上げされるなどの副作用が起きている。「第三の矢」である成長戦略も、市場からやや期待外れの評価を受けた。将来的に劇薬になる可能性もあるという。では、副作用を和らげる方策やもっと効果的な成長戦略が、あるのかないのか。野党から聞きたいのはこの点だ。
党首討論で、民主党の海江田万里(かいえだ・ばんり)代表(64)は、安倍首相から「民主党はどうやって経済成長させるのか。デフレのままでいいのか、円高のままでいいのか」と問われたが、反論といえば「高校無償化や子ども手当で急激ではないが、消費を拡大させ持続的に経済を成長させる」と、民主党政権時代の政策を紹介しただけだった。
よっぽど、共産党の「政府が大企業に対し内部留保を1%取り崩して月1万円程度の賃上げするよう要請する」という、“賃上げターゲット論”のほうが新味があった。
民主党幹部が「アベノミクスが堅調なうちはどうせ何をいっても聞いてもらえない」と自嘲しているようでは、参院選にどこまで本気で臨んでいるのか疑いたくもなる。
荻生徂徠(おぎゅうそらい)は著書「政談」に「国天下を治むるには先富豊かとなる様にする事、是治めの根本なり」と書いた。政治の根本は国を豊かにすることで、経済成長が上向きならば国が大きく乱れることはそうそうない、ということか。
「確かに」というと語弊があるかもしれないが、官邸前では原発再稼働や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加に反対する市民の集会が続けられているが、6年前の第1次安倍政権のときの批判の嵐には比べるべくもない。当時は年金問題に火がつき、事務所費問題などもあって風当たりは世論、メディアともに相当に厳しかった。
安倍政権のめざす方向性は第1次政権当時も今も変わっていない。憲法改正や教育再生を目指し、外交力や安全保障の充実をはかろうとしているが、こうした政権の基本方針に対する批判や非難も当時ほどではない。
もし、これもそれもアベノミクスの波及効果なのだとしたら、ますます野党各党も経済再生や成長戦略の具体策を競い合うべきではないか。自公政権の「暴走」を制するために議席を与えてほしい、というだけでは説得力はない。
(佐々木美恵/SANKEI EXPRESS)