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ネット選挙に潜む4つの罠 渡辺武達

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ネット選挙に潜む4つの罠 渡辺武達

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 【メディアと社会】

 3週間にわたり日本列島を沸かせた参議院議員選挙がやっと終わった。結果は各報道機関が序盤、中盤、終盤に行った世論調査の通り、自民党の独り勝ちと民主党の没落の結果として、衆参の「ねじれ」が解消され、自公政権が盤石になった。選挙結果の詳細な分析はその道の専門家にまかせ、本欄では公職選挙法の改正により、今回の参院選から解禁されたネット選挙の持つ意味と、今後の日本の政治における民主制(デモクラシー)の質的変化の可能性について取り上げたい。

 「巨大な井戸端会議」

 私たちがまず知っておかねばならないことは、ネットの特性と問題点である。第1は、技術的にネットは情報が世界に瞬時に広がる「巨大な井戸端会議」の場であるということだ。そこで飛び交っている話題は、実に多様で人々の生活感であふれている。いい言葉を使えば、草の根レベルの民主制が保障されている。ただ、そこでの議論はたいてい、尻切れトンボで終わる。ネットを主体としたコミュニケーションでは、現代のような世界規模の社会運営を民衆の力で安全に維持していくことは困難だ。

 第2は、メディアに対する国家統制が強い中国やロシアなどの国では、ネットは社会開放・解放の手段としてある程度有効だが、日本のような言論・表現の自由が法的に保障された国では、不満のはけ口として機能するにすぎない、ということである。その効果は、今回の参院選で、組織をもたない反原発論者が東京で1議席を獲得するのに役立った程度なのだ。

 リアル社会が弱体化

 第3は、ネット選挙の導入によって次第に選挙活動の期間と手法の枠が取り外され、選挙活動が日常化・24時間化していく一方で、有権者がネットでの発言で満足し、投票所に行かなくなる恐れがあることだ。その結果、リアル社会が弱体化しかねない。

 第4は、メディア環境の操作にたけた者が執権者となり、ネットの力が過大に評価される懸念があることだ。それにより、真摯(しんし)に社会を理解しようとする人たちを「合理的無知」(rational ignorance=社会問題を勉強しても、選挙では1票しか行使できないからそうした勉強に時間を使う意味がないと考えて楽しみを優先する生き方)へと導いてしまう心配がある。

 政府は問題点無視?

 ネット選挙を管轄する総務省のホームページ(http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo10.html)に掲載されている広報紙「総務省」6月号の特集記事にあるマンガを見ると、政府はネット選挙のこうした問題点を無視しているとしか思えない。

 政党や候補者向けには別途説明しているのだが、マンガでは「ネットでは投票ができないと夫に注意する妻」や「ネットでイケメン候補者を応援したい娘に、子供は選挙活動ができないと諭す母親」が描かれているのだ。有権者をバカにしているのだろうか。

 一方で、日本では小泉純一郎首相以降は、政治的な意見や政策手法が異なる首相が次々に誕生してきた。競馬場で気に入った馬券を買うような感覚で首相が選ばれてきたのだ。

 もちろん、それが「民意」の実態なのかもしれない。ただ、その民意にも反映されない「声なき声」を忘れないでおきたい。声なき声には、3種類ある。1つは、黙っていた方が支配階級のご機嫌を損ねず、利益のおこぼれにあずかれると知っている人たちの声だ。もう一つは、先に挙げた合理的無知層の声。そして3つ目が、声を上げていても、メディアが取り上げてくれず、その存在が認知されていない社会的弱者の声である。

 ネット選挙には危険な問題が山積だが、社会の充実のためにどう使いこなしていくのか、その方策を探ることが求められている。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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