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「引き分け」について話すタイミングだ

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「引き分け」について話すタイミングだ

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 【佐藤優の地球を斬る】

 日露交渉が質的に転換している。そのことが端的に現れたのが、9月10日の日露首脳電話会談だ。外務省の発表は以下の通りである。

 <9月10日午後6時から約15分間、ロシア側の発意により、安倍総理大臣はプーチン・ロシア連邦大統領との間で電話会談を行ったところ、概要以下のとおり。

 日露交渉に質的転換

 1 2020年東京オリンピック・パラリンピック開催

(1)冒頭、プーチン大統領から、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致実現についての祝意とともに大会の成功を祈念するとの発言があった。続いて、東京が最高レベルのオリンピックを開催することを確信している、IOC総会で3つの都市が立候補した中で東京が勝利したことは、安倍政権及び安倍総理への国際社会の信頼の印である旨述べた。

(2)これに対して安倍総理から、G20サミットがプーチン大統領のリーダーシップの下、成功裏に終わったことをお祝いする旨述べ、今回の2020年オリンピック・パラリンピックの東京招致決定について、早速にお祝いの電話を頂き大変うれしく思う、5カ月後に迫ったソチ五輪の成功を心からお祈りする旨述べた。

 2 シリア問題

(1)安倍総理から、シリアの化学兵器の国際管理等をシリア政権側に呼びかけるとの提案を前向きなものと評価し支持する旨述べるとともに、日本としても、シリア情勢の改善・正常化に向け、ジュネーブ2会議をはじめとするプロセスに積極的に参加・貢献していく考えである旨述べた。

(2)これに対しプーチン大統領からは、現在シリア側に働きかけているところである、作業は難しいものがあるが、一定の進捗(しんちょく)がある旨述べた。

(3)最後に、安倍総理から、シリアに関して引き続き連絡をとり合いたい旨述べた>(http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page18_000042.html

 プーチン大統領は、20年の五輪・パラリンピックの東京への招致決定をわがことのように喜んでいる。今回の電話会談は、ロシア側のイニシアチブ(発意)によるものであるが、プーチン大統領が安倍首相に人間的好感を持っているからこそ実現した。

 外交的にはシリア情勢に関するロシア提案を安倍首相が支持したことの意味が大きい。日本は米国の同盟国であるが、シリア情勢について米国の判断に従うのではなく、日本独自の政治決断でロシア提案を支持したとプーチン大統領は受け止めている。

 北方領土も公平な審判を

 さらに外務省公式HPでは、発表されていないが、10日の日露首脳電話会談に関するブリーフィングにおいて世耕弘成(せこう・ひろしげ)内閣官房長官が「なお、五輪招致に関連しておもしろいユーモアのやりとりがあったので紹介する。プーチン大統領から『五輪招致に関して、少し心配をしているのは、ロシアの柔道家が東京五輪では金メダルを獲得することが難しくなるのではないか。審判は客観的なものであることを期待する』という話があった。これはジョークとして。安倍首相がそれに対して『20年、柔道の決勝戦は日露になるのではないか。公平な審判をさせるように心がける』という少しジョークの応酬があった。」と述べた。

 ロシアには「ジョークには部分的真理が含まれている」ということわざがある。プーチン大統領の発言は「北方領土交渉をめぐる歴史的、法的議論についても審判は客観的になりましょう」というメッセージだ。プーチン大統領は何度も、「引き分け」による北方領土問題の解決について言及している。法律論議を脇に置いて、「引き分け」の中身について政治的な話をするタイミングにきていると思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS

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