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科学
【アラスカの大地から】北極圏に燃え盛る紅葉 松本紀生
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人知れず現れ、消えてゆく絶景がある。アラスカを彩る自然美の中でも、これほど人目に触れることのない風景も珍しいだろう。その壮大さも群を抜いている。北極圏を埋め尽くす紅葉だ。
8月中旬。チャーターしたセスナ機でツンドラの原野に降り立った。ここまで町から半日を要する。その飛行距離と高額な運賃とが、人を寄せつけない大きな要因となっている。
2週間のキャンプが始まった。地面はまだ薄い緑に覆われているが、漂う冷気には秋の訪れどころか冬の気配すら感じる。この凛とした清らかな空気がたまらなく好きだ。
日毎に気温が下がってゆく。夜の気温は零度を下回るようになってきた。自然は僕よりもはるかに敏感だ。7月には体のまわりを影のようにまとわりついていた蚊の大群も、今では数匹を残すのみである。8月下旬。風景が目に見えて色づき始めた。
もうどこを向いてもシャッターチャンスだらけである。撮影者が誰であれ、いい写真が撮れる。そんな夢のような風景に包まれていた。
≪とらえきれない無限の「彩り」≫
テントを朝出発し、夕方戻ってくるまでの間、可能な限りの距離を歩き続けた。だが、どれほど歩こうとも、この紅葉の海が途切れることはない。あまりの広大さと彩りの鮮やかさに、興奮したままシャッターを切り続けた。
9月初旬。静寂を切り裂く爆音と共にセスナ機が迎えにきた。ピークにある紅葉に後ろ髪をひかれながら機内へと乗り込む。
短い助走の後、ふわりと飛び立ったセスナ機。その窓から見えた風景に目を疑った。キャンプ中にひたすら歩き続けた紅葉の海。しかしそれは、果てしなく広がる大海のほんの一部に過ぎなかったのだ。そのまわりには、上空から360度を見渡してもとらえきれないほどの無限の紅葉が広がっていたのである。これぞアラスカだ。これが本当の自然なんだ。あの興奮がよみがえってきた。(写真・文:写真家 松本紀生/SANKEI EXPRESS)