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中国つけこむ「アジア外交の空白」 新秩序形成…米国の衰退浮き彫り

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中国つけこむ「アジア外交の空白」 新秩序形成…米国の衰退浮き彫り

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 【国際情勢分析】

 バラク・オバマ米大統領(52)は先週、予算未成立への対応を理由に外遊を中止し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議や東アジアサミット(EAS)などを欠席した。苦渋の選択とはいえ、アジアからは米国の不在が中国のトップ外交を際立たせる結果になったとの論評も出た。一方、オバマ政権が強調する「アジア重視」の戦略については、その実効性に疑問を投げかける声が米国でも上がっている。

 貿易額拡大を提唱

 シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは10月10日付で、「アジア・太平洋地域の統合への保証」と題した社説を掲載。オバマ氏がAPEC首脳会議などへの参加を見送ったことが、この地域の「外交の空白」を生み、それを中国の習近平国家主席(60)が巧みに活用したと指摘した。

 習氏は首脳会議や、それに先立って訪れたインドネシアやマレーシアで、貿易額のさらなる拡大を提唱した。中国は両国にとって、すでに最大の貿易相手国である。一連の会議を通じ、中国は地域のインフラ投資を担う銀行の創設も掲げ、両国から大きな歓迎を受けた。また、中国は両国にとって、自国の産品やサービスを売る市場としての魅力が広がる潜在力を秘めている。2015年の経済統合を目指す東南アジア諸国連合(ASEAN)は、加盟国間の発展度合いの格差解消が大きな課題だ。中国が表明した貿易拡大やインフラ資金の調達は、課題解決への大きな後押しとなる。

 ストレーツ・タイムズの社説は、習氏がアジア・太平洋地域で「中国が平和と繁栄の柱になるとの枠組みを描いた」とも指摘。中国のASEANに臨む姿勢について、南シナ海での一部加盟国との領有権争いといった現下の問題だけでなく、利益を見据えた長期的な視野でこの地域を捉えているとの見立てだ。

 新たな秩序に従え

 中国共産党機関紙、人民日報系の国際情報紙「環球時報」は10月8日付で、「世界の発展にはおのずと秩序があり、米国もこれに従うべきだ」との社説を掲載。「発展途上国の進展が世界経済の推進力となっており、先進国も新興市場の繁栄の中に自ら利益を見出す必要がある」と主張した。

 発展途上国、とりわけ中国を軸とする新興市場の勃興が米国型の市場メカニズムや経済システムに取って代わり、世界経済で新たな“秩序”を形成している。社説にはそんな中国の自信がにじんでおり、「米国も従え」といわんばかりの気概がのぞいた。

 中国は、インドネシアのバリ島で行われたAPEC首脳会合には習氏が、ブルネイでのEASなどには李克強首相(58)が出席した。環球時報の社説は冒頭で、中国の首脳2人がこの地域に時を置かず姿を見せたことと、オバマ氏の不参加を対比してみせた。アジア太平洋地域での主導権争いで、オバマ氏の「欠席」を最大限に利用した中国指導部の思惑を代弁したようにみえる。

 社説はさらに、「中国がどのような態度で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に臨むかがアジア太平洋地域の貿易体系の将来を決める最大の不確定要素であるにもかかわらず、米国は中国包囲網を画策している」などと指摘。中国抜きで進むTPP交渉を牽制(けんせい)した。

 衰退浮き彫り

 一方、米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は10月8日付で、オバマ氏の東南アジア歴訪中止に関連して大手シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)日本部長のマイケル・オースリン氏の論評を掲載。オースリン氏は、歴訪中止よりも「歳出削減が米国の海外でのプレゼンスを縮小させていることの方が危険だ」と説いた。

 つまり、オースリン氏は米国のアジアでの外交・軍事政策が歳出削減で大きな影響を被っていると主張しているわけだ。米国の国防費が今後10年間で約1兆ドル(約98兆円)削減される見通しであることや、米空軍が一部の軍事演習の中止を迫られたといった実例を挙げ、こうした状況が続けば「米軍の司令官たちは紛争時に相手を制圧する自信を持てなくなる」と警鐘を鳴らした。

 覇権国家の土台は軍事力と経済力であり、すでに中東情勢に象徴されるように米国の軍事力は覇権としては通用しなくなりつつある。10月7日から10日にかけて行われた一連の会議は「新しいアジア」を実感させ、たそがれ期に入っている米国の衰退を一段と浮き彫りにした。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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