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いつか絵本を描いてみたかった 「気づかいルーシー」劇団主宰 松尾スズキさん

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いつか絵本を描いてみたかった 「気づかいルーシー」劇団主宰 松尾スズキさん

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 【本の話をしよう】

 ≪夢で見た奇想天外なストーリー≫

 連続テレビ小説「あまちゃん」脚本家の宮藤官九郎ら多様な才能を輩出する劇団、『大人計画』。その主宰をつとめ、演劇界にとどまらず小説や映画など幅広い分野で活躍する鬼才、松尾スズキさん(50)が、『気づかいルーシー』で、絵本に初挑戦した。キュートで残酷、そして何より、とってもやさしい。“松尾ワールド”のエッセンスが詰まった作品だ。

 初心に帰った感じ

 「大学でもデザインを勉強していましたし、もともとイラストや漫画を書いていた。なので、いつか絵本を描いてみたいという気持ちがありました。自分の絵柄も、大きなページで見せることができる絵本向きなんじゃないかな」。いい感じに肩の力が抜けたポップな絵柄。「昔、赤塚不二夫さんから言われた言葉が印象に残っていて。『簡単で、誰にもマネできるような絵を描くのが一番難しいんだ』って。まあ、僕はこういう簡単な絵しか描けないんだけど(笑)」

 初絵本への気合は十分。「東急ハンズにわざわざ画材を買いに行ったり…学生時代を思い出して懐かしい気持ちになった。初心に帰った感じです」という。

 物語は、ある村に住む少女、ルーシーとおじいさん、そして子馬の3人(?)のキャラクターを中心に進む。ある日、おじいさんを乗せて子馬が走っていたところ、おじいさんは落馬して死んでしまう。ルーシーを悲しませまいと思った子馬は、とんでもない行動に出る。なんと、おじいさんの皮をはいで、自分がその中に入ってしまうのだ。

 奇想天外なストーリーの秘密は、この物語が誕生したきっかけに隠されている。「実は、夢をもとにしているんです。ずいぶん前に今回の作品とほぼ同じ夢を見て、その内容を当時の妻に話したら、『いい話だね』ってワンワン泣き出して。長い間忘れていたけれど、『あれを絵本にしたら面白いんじゃないか』と思いつきました」。夢ならではの奔放な描写。「漫画だとシュールすぎるかもしれないけれど、絵本なら成立する」

 「皮をはぐ」という行為も一見残酷に思えるかもしれないが、あえて取り入れた。「『かちかち山』とかもそうだけれど、結構絵本って残酷で、そこが面白かったりする。それに、自分は、これまでの戯曲や小説でも『残酷さの先にある自由』を追求してきたつもり。今回もそれを取り入れました。あとは、『皮をむく、むかれる』ということで『事実と真実』の対比みたいな見方もできるかもしれませんね」

 傷つけることもある

 タイトルにもあるように、「気づかい」も重要なテーマの一つ。

 おじいさんの皮をかぶってルーシーの前に現れた子馬だが、もちろん馬が人間のフリをするには無理がある。ルーシーはすぐに事態を察するが-。

 《ルーシーは見て見ぬふりをしました。すごく、努力して、見て見ぬふりをしました。》

 互いに相手を思ってゆえの気づかい。だが、この気づかいが思わぬ悲劇を呼ぶ。「気づかいって大事だけれど、実は人を傷つけることもある。打ち上げの飲み会で1人でいると、遠くのほうで『松尾さん一人ぼっちだからそばに行ってあげなよ』ってボソボソ話してる声が聞こえて余計傷ついたり(笑)」

 自身もかなりの「気ィつかい」。「気つかいすぎて手も足も出ないときがある(笑)。でも、結局、演出って『気づかい』みたいなもんですからね。物語を観客にどう効果的に届けるか、相手の気持ちをくむということをしないと成り立たない。物語は自分のために書くということもできるんですが、演出は、人の気持ちを気づかうところからしか生まれないものだと思っています」

 50歳過ぎて「カワイイ」

 発売は9月14日だったが、その前から増刷がかかるほどの人気ぶり。「かわいい!」と好評の主人公のルーシーをあしらったバッグやマグカップも発売された。「まさか50歳を過ぎて『カワイイ』に手を出すことになるとは…でも、(映画監督の)三木聡さんから『面白い』って言ってもらったり、評判がすごくよくてうれしいですね。難しいことを考えずに、大人も子供も、『くだらないこと描くなあ』と気楽に読んでもらえれば」(文:塩塚夢/撮影:大山実/SANKEI EXPRESS

 ■まつお・すずき 1962年、福岡県生まれ。88年「大人計画」を旗揚げ。97年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で岸田國士戯曲賞を受賞。2008年、映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。小説作品に『クワイエットルームへようこそ』など。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」にも俳優として出演。

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