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【奥多摩だより】山のお寺の地蔵さん(東京都奥多摩町)
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奥多摩湖の上流近く、北の峰谷方面に進む道沿いに臨済宗の普門禅寺(ふもんぜんじ)がある。湖に注ぐ峰谷川左岸の高台だ。山間には似合わないと言ったら失礼極まりないが、かなり立派な楼門がある。18世紀末に建てられたもので、旧小河内村の河内地区にあったが、小河内ダムが完成して村が湖底に沈むため、楼門がここに移築された。
門をくぐって石段を登ったところに、6体のお地蔵さんが並んでいる。これも移設されたのだろうか。さほど風化していないから、後に作られたのかもしれない。赤い毛糸の帽子をかぶって、日差しのなかにたたずんでいる柔和な顔に会うのはいつも楽しみだ。
楼門が、「昔住んだところは湖底に沈んでしまったけれど、いいところだった」なんて話しかけているのだろうか。この寺あたりにはサルがよく出没する。「昨日はお供え物をもらったのだけど、サルの連中が持っていってしまったよ」とお地蔵さんが答えているかもしれない。小生もサルの鳴き声を聞いたし、ある日は木の上から見下ろされた。道路には彼らの排泄物がよく落ちているから要注意だ。
小河内ダムの完成は1957(昭和32)年11月。旧小河内村など945世帯の人たちが故郷を離れ、集落の大部分は水没した。そして奥多摩湖(正式名称は小河内貯水池)が出現。その完成50周年の式典がおこなわれたのは2007年の秋のことだった。ダムは今年56歳になる。人間ではもうすぐ定年だが、「まだまだ元気だ!」とばかりに満々と水をたたえている。湖畔に「奥多摩 水と緑のふれあい館」があって、その周囲にも湖底に沈んだ地区の路傍にあった石仏や供養塔が、いくつも並べられている。(野村成次、写真も/SANKEI EXPRESS)