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体を通し自らと向き合う 女性が支えるヨガブーム
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「いま、ここ」にある感覚を大切にする。他人と比較せず、自らの内側を見詰めて心や体と対話する。女性中心のヨガブームが拡大している。
飾り気のない簡素な部屋。照明が少し落とされた、がらんとした空間に聞こえるのは呼吸の音だけ。東京の繁華街、JR渋谷駅に近いビルの一室にあるヨガスタジオ。平日夜、外は光や音があふれて人、車が行き交うが、ここは全くの別世界だ。
行われているのは、アシュタンガ・ヨガのレッスン。欧米や日本で広がるヨガの一つで、決められた身体的ポーズを順番に展開するのが特徴だ。
この時間は、個人が自主練習をし、指導者が1人ずつチェックする「マイソール」と呼ばれるクラス。いくつものヨガスタジオを持つ「TOKYOYOGA」のディレクター、chama(本名・相沢護)さんが8人の受講生を指導している。「吸って」「吐いて」。chamaさんの声が時折響く中、受講生はそれぞれに黙々と取り組む。
見ているうち、姿勢がどんどん過激になる。両脚が首の後ろにあって手が地面を支えていたり、手足と胴が重なるように一体化したりする姿が。間近にいると、身体が放つ熱を感じる。指導者無しで行うのは難しそうだ。修了後に話を聞くと、「すっきりする感じが他のものにない。体と心のバランスが整うようになった」と受講の女性。
chamaさんは「体というリアルなものと対話をすると、自分と向き合わざるを得ない。そこに『気づき』がある。早朝にアシュタンガ・ヨガに取り組み、会社に行く人は多い」と話す。
長年、ヨガ指導に当たってきたchamaさんが最近、感じることがある。ダイエットや健康のためのエクササイズと捉えてきた人々が心や魂の領域に関心を持ち、一方でヨガの哲学に傾倒してきた人々が体を動かす実践を行い、両者が自然に接近してきたことだ。
拡大し、深化するヨガブーム。それを実感するイベントが9月下旬に開かれた。アジア最大級のヨガの祭典をうたう「ヨガフェスタ」。今年10回目で、横浜・みなとみらい地区で開催された。
真っ青な空が広がる臨港パークでは野外ヨガ。ゆったりした講師の声が聞こえる。「ゆっくりと変化し続ける体の感覚を受け取りましょう」
屋内会場も子供向け、障害者対応などさまざまな講座が。あるレッスンをのぞくと、「『いま、ここ』にいることを見詰めましょう」「人と比べずに内側に意識を向けて」といったヨガの世界でよく聞く言葉が飛び交う。ブームの支え手のほとんどは女性であることを反映してか、おしゃれなウエアといった販売ブースも多彩で、ビジネス需要の広がりを感じた。
専門の施設だけではなく、さまざまな場所で行われるヨガ。寺院でのヨガ教室も増えた。東京都目黒区の天台宗円融寺もその一つ。月1回の「禅×YOGA×アーユルベーダ」は、寺でヨガと座禅、インドの伝統的医学アーユルベーダを学ぶセミナーだ。本堂に敷き詰めたヨガマットに約20人の女性。ヨガを終えると、次に座禅が始まった。
阿純章副住職は「仏教は心と体の調和をテーマにしてきた。セミナーはその延長線上にある。3つは源が同じで、本来持っている力を発揮、ありのままの自分を見いだし生きることが根底で共通している」と話した。
数千年の歴史を持ち、さまざまな広がりを見せるヨガ。ヨガ文化に詳しい愛知学院大の伊藤雅之准教授(宗教社会学)によると、中世で発達したヨガに、西洋的な身体技法とインドの伝統武術などが融合して体系化されたのが、アシュタンガ・ヨガといった現代ヨガ。それが、西洋世界に広がる中でよりスピリチュアルな意味が与えられ、日本には英国や米国を経由して伝わったという。
「本当の自分にふれる」など、現代ヨガでよく用いられるキーワードとスピリチュアルな文化の言葉は共通している、と伊藤准教授は指摘している。(SANKEI EXPRESS)