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世界遺産「富士山」 抱える課題と取り組み(下) 信仰の歴史 若い世代に伝える好機

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世界遺産「富士山」 抱える課題と取り組み(下) 信仰の歴史 若い世代に伝える好機

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来館者に説明をする富士吉田市歴史民俗博物館の学芸員、布施光敏さん(中央)=2013(平成25)年10月30日、山梨県富士吉田市(中央大学FLP深澤ゼミ有志学生記者撮影)。※一部画像を加工しています。  ≪富士吉田市歴史民俗博物館の学芸員 布施光敏さん≫

 「素晴らしい情景と、私たちが培ってきた富士山信仰の歴史が評価されたと思っています」と、誇らしげに話すのは、富士吉田市歴史民俗博物館の学芸員、布施光敏さん(45)。

 この博物館は、富士吉田市の歴史や伝統文化、産業などの資料を展示している。なかでも、メーンになっているのが、「富士山信仰」に関する展示だ。

 「今回の世界遺産の登録では、(ユネスコの諮問機関の一つである)イコモスの委員に、富士山の魅力、特に信仰の対象としての価値をいかに伝えるかが、一番重要な点だった」と、布施さんは振り返る。

 富士登山についても、「登ることも目的の一つですが、富士山という神仏にお参りをすることが本来の目的なんです」と強調する。

 現在も白装束を着た「富士講」の信仰登山者は少なくない。富士講は主に江戸時代の後半に組織された信仰団体だ。富士山に登ることは、神や仏のいる清浄な世界に旅立つことを意味するとされ、身を清めるため、白装束を身に付けるという。富士山は今も信仰の対象であり続けている。

 富士吉田市歴史民俗博物館は11月から一時休館となり、施設の増改築を行い、2015年4月にリニューアルオープンする予定だ。博物館は海外の人たちに文化遺産としての富士山の価値を理解してもらう上でも大きな役割を担う。

 布施さんは「信仰を中心に富士山と人とのかかわりについての展示を充実させたい。富士山についてきちんと学べる場所として、ぜひ博物館を利用してほしい」と話している。(今週のリポート:中央大学 FLP深澤ゼミ有志学生記者 宮澤絵理/SANKEI EXPRESS

 ≪北口本宮冨士浅間神社の宮司 上文司厚さん≫

 山梨県富士吉田市にある「北口本宮冨士浅間神社」は、世界文化遺産の25構成資産の一つで、吉田口登山道の入り口にもなっている。

 世界遺産への登録が決まって以降、ホームページへのアクセスはそれまでの約3倍に増え、富士山信仰への関心は高まっている。外国人観光客も増加しており、神社のある麓から登る人も少なくないという。

 「どこか神妙な気持ちで登っていく日本人登山者に比べ、外国人登山者はレジャー感覚で登っている感じがしています」と、北口本宮冨士浅間神社の宮司、上文司厚さん(51)は話す。多くの日本人が子供のころから富士山を身近に感じ、自然と信仰心を持つようになる。上文司さんは「外国人にも、レジャーとしての登山だけではなく、少しでも富士山信仰を感じて登ってもらいたい」と、望んでいる。

 そのため、外国人にもわかりやすく富士山信仰の歴史を説明するようにしているという。

 もっと信仰心を持って登ってほしいのは、日本人も同じ。かつては、300メートルの参道を歩いて神社に参拝し、登山に挑む人が多かった。ところが、現在は参拝をせずに5合目から登るのが当たり前。参拝者も、ツアーバスや車でやってきてすぐ移動していく。いわゆる「弾丸登山」だけでなく、「弾丸参拝」が増えているという。

 「参道を歩いて参拝をすれば、昔の富士講信者の気持ちに近づくことができる。ゆったりととどまり、富士山本来の姿を見てもらいたい」

 交通が発達し手軽に参拝や登山ができるようになった現代だからこそ、それは貴重な体験となるはずだ。

 富士山信仰を若い人たちに引き継いでいくことも重要な課題だ。宮司に加えて、登山者の案内や世話をする「御師」という職も務めている上文司さんは、「私が幼いころは御師もたくさんいた。富士山信仰の歴史を話せる人は地元でも70歳以上の人ばかり」と、危機感を強めている。

 「世界遺産登録をきっかけに改めて富士山の歴史を学ぶ人が増えるのは良いことだと思います」

 今回の世界遺産登録は、富士山信仰や富士講の歴史を若い世代に伝えていく絶好の機会でもある。(今週のリポート:中央大学 FLP深澤ゼミ有志学生記者 田中瑞穂/SANKEI EXPRESS

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