村松孝尚さん(以下村松) すばらしい(拍手)。言葉として言っていただいたのは初めてですが、真だと思います。僕、人好きだし、人生のなかで嫌いな人っていなくて困るなって。影響を受けることを恐れなかったっていうのは、本当にそうですね。
天童荒太さん(以下天童) 人から影響を受けることを恐れず、むしろそれを喜ぶ。僕は、これが「モード」の本質なのではないかと思うんです。ファッションの第一義は「飾る」ということではなく、「人と会う」ことなのではないか。会って、影響を受ける。それを喜ぶ。また影響を与えて、喜んでもらう…それは、もてなしと言い換えることもできるかもしれません。人と会うから、人をお招きしたから、自分や部屋を飾る。人と会うことを抜きにして、ファッションをすることは無意味なのではないでしょうか。
村松 もう、びっくりですね。ファッションをやっている人は、そういう視点でモードを見ていませんから。
気持ちがいいかどうか
天童 モードの新たな視点によって、村松さんご自身、眠っていた消費者の才能を開花させてこられましたよね。
村松 僕は、日本人の女性のクリエーティブなものに対する理解力の高さは、世界一だと思っています。フランソワーズから財布も入らないバッグにクリエーションという価値があると教えられ、日本に持ってきた。そうすると、日本のお客さんは1人買い2人買い、クリエーションという消費市場を作らせていただいた。金の重さとか、そういった誰かが作った価値観ではないクリエーションに対して、「あ、いいんじゃない」と自分の中に取り込んでいける感性。それを引き出すことができたというのは、誇りに思います。
日本は、不景気だとか少子化だというけれど、それと一緒にマーケットが沈むというのは間違っていると思う。体の中に眠っているものを送り手側が引き出していけば、いくらでも消費市場は進化していく。
天童 でも、男性はまだまだファッションを楽しむところにまで行けていない。僕もそうだけれど、服を買いにいっても、店員さんが近づいてきただけでびびっちゃう(笑)。
質実剛健という文化に縛られてきた時間が長いから、飾るということがマイナスイメージになってしまっている。今回、いろんなお店やイベントを見て思ったのは、HPFは「飾る」ではなく「彩る」ということをしていて、集まってくる人たちも「彩り」を求めにきているんじゃないかと。生活を、人生を彩る。そういった言葉一つで、縛られてきた文化を解き放つ切り口になるんじゃないか。
村松 僕も「気持ちがいいかどうか」というキーワードがあるんですが、それはたぶん「彩る」ということと同じですね。飾り込むのではなくて、どういう生活や人との関係が気持ちいいか。
壊さずに前に進む
天童 今回表参道周辺を取材させていただいて、日曜はもちろん平日も人がいっぱいで、あらためて驚きました。その一方で、地方都市の駅前から続くシャッター通りがある。一概には言えませんが、そういった商店街は、大型店舗と価格やサービスで競争しようとして、いつの間にか彩るということを忘れた面はなかったでしょうか。人は、彩りに会いたいと思って外へ出てくる。無意識ながら何かしら良い影響を受けたいという思いで集まってくるものですから。
村松さんは、「青参道」という通りを作ったり、合同展示会をやったり、アートを紹介したり、いろんなことをされている。特化していない。さきほど、会社は社会だと言われましたが、社会をどうにかしたいというのが基本にあるのではないでしょうか。ひょっとして、村松さんは「革命家」になりたいのではないですか。
村松 そうですね、なりたいですね(ニヤリ)。
天童 若い頃に傾倒されたヒッピー文化っていうのも革命につながってますよね。
村松 つながっていますね。もちろん、爆弾使ってどうとかではなく、進化させていきたい。
天童 オルタナティブっていうのは、革命家でないと標榜できないんですよ。つまり、革命というのは壊すことではなく、新たなクリエーションなわけだから。もとあるものを大事にしないと、クリエーションはできない。
村松 そういう革命をやりたいです。もとあるものを壊すわけではなくて、それをよく理解し、大事にして、次のところに行くという。
天童 最後に、村松さんが描く未来図を少しだけ見せていただけませんか。
村松 個人がもっと解放されて、大事にされるということでしょうか。もっと人はやさしくなれるし、人は人を尊重することができる。そういう未来になっていたらいいと思いますね。(取材・構成:塩塚夢/撮影:宮崎裕士/SANKEI EXPRESS)
■むらまつ・たかなお 1952年、長野県生まれ。専修大学法学部卒業。カルチャー誌のジャーナリストを経て、84年、東京・原宿の商業施設「ラフォーレ原宿」にレディースファッション小売店「LAMP」開店。85年、「原宿プロジェクト」設立(現「アッシュ・ペー・フランス」)。ニューヨークに移住し、現在は日本、アメリカ、フランス、南米を行き来している。
■てんどう・あらた 1960年、愛媛県生まれ。明治大学卒。86年「白の家族」で第13回野性時代新人文学賞、93年「孤独の歌声」で第6回日本推理サスペンス大賞優秀作、96年「家族狩り」で第9回山本周五郎賞を受賞。2000年「永遠の仔」で第53回日本推理作家協会賞、09年「悼む人」で第140回直木賞を受賞。最新刊「歓喜の仔」で第67回毎日出版文化賞を受賞。