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間接金融主体の日本、量的緩和に限界

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間接金融主体の日本、量的緩和に限界

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お札を刷っても、貸し出しは増えないのか?(1998年~2013年)=2013年11月19日現在、※データ:日銀統計  【国際政治経済学入門】

 中央銀行が資金を大量発行して、銀行に流し込む量的緩和政策で景気がどこまでよくなるのだろうか。

 日銀は2001年初めから5年間、量的緩和政策を続けたが、白川方明(まさあき)前総裁(08年4月~13年3月)は実体景気への効き目は薄いとして、小出しの緩和に徹し、デフレは進行しっぱなしだった。白川路線を否定する黒田東彦(はるひこ)総裁は就任すると、「異次元緩和」と銘打った量的緩和に踏み切った。

 黒田緩和のモデルとなっているのは、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が08年9月のリーマン・ショックから現在まで3度にわたって実施してきた量的緩和政策である。FRBはことし9月までの5年間でドル資金の供給残高(マネタリーベース、MB)を3.8倍に膨らませてきた。黒田総裁もMBを2年間で2倍に増やす方針だ。

 回らなければ意味がない

 中央銀行がお札を刷ってヘリコプターから大量に継続してばらまいてくれると、消費需要が増え続ける。モノの供給は限られるので、需要超過となってインフレになる。日本のような慢性デフレでは、お札バラマキ策の効果はあるに違いない。

 だが、中央銀行が資産の裏付けなしにお札を刷ると、「信用を失う、非常識だ」と金融のエリートたちは恐れる。物価が際限もなく上昇する「悪性インフレ」に見舞われるのではないかと。そこで、中央銀行が国債という最も信用度の高い金融資産などを金融機関から買い上げ、その資産に見合うお札を刷って金融機関に渡す量的緩和政策をとる。それで、確かにおカネの量は増えるのだが、カネは回らなければ意味がない。

 銀行が企業や消費者向けに新規貸し出しすれば、企業は設備投資したり、雇用を増やそうとしたりするかもしれない。消費者も新車や住宅を購入する気になるかもしれない。こうして量的緩和は需要を増やし、物価を押し上げ、景気をよくするはずだが、「もし~すれば」の仮定形、あるいは「~するかもしれない」の可能性の世界である。

 銀行は貸し出しリスクを考えるし、企業は新規事業や事業拡大で稼げる見通しがないと、借金をためらう。消費者も収入が増えないことには、ローン付きでの新車の購入には慎重になる。銀行も企業も消費者も、デフレや不況が続く中では、新規の融資または借り入れを控えるのだ。

 増えたカネが実際に融資に回っているかどうかをみるうえで、一番分かりやすい指標が「銀行の預貸率」である。預金に対してどのくらいの割合で貸し出されているかを示す。それとMBの推移を日米それぞれに追ったのが2つのグラフである。一目瞭然、日米とも、見事に同じトレンドを示している。いくらお札を刷っても預貸率は日米とも下落の一途。MBが増えても融資には結びつかない。

 日米で真逆の構造

 それでも米国の場合、少なくてもデフレには陥らずに済んでいるし、景気もかなりゆっくりではあるが回復基調をたどっている。その秘密は米国の金融構造にある。米国の国内総生産(GDP)に対する銀行融資残高の割合はことし9月末で43%に過ぎない。それに対し、日本は88%に上る。証券市場からの資金調達による「直接金融」主体の米国と銀行融資による「間接金融」中心の日本の違いだ。

 米国の場合、MBによって国債などの証券をFRBが買い上げる。さらにFRBから資金供給を受けた金融機関が株式のインデックス商品などに投資する。こうして証券市場をにぎわして、株価をつり上げる。すると企業などは証券市場から低コストの資金を調達できる。株式など証券資産主体に金融資産を運用している米国の個人はフトコロが潤って消費を増やす。需要増をみて企業は設備投資を増やす。

 日本の場合、家計の金融資産の54%は現預金で、株式など証券資産は14%に過ぎず、米国とは真逆である。株価が上がる資産効果が個人消費に波及するには限界がある。需要が伸びなければ企業も雇用増や設備投資をためらうし、銀行も貸し出しを増やさない。異次元緩和効果への過剰期待は禁物なのだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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