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陳情テロ恐れ「受付はネット」 中国当局、不満爆発でガス抜き
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中国の陳情処理機関である国家信訪局は29日までに、インターネットによる受付を充実させると発表した。「公正な司法裁判」が望めない中国では、陳情が主な不正解決手段だが、役人の腐敗や格差拡大への不満などから陳情者が激増し、窓口で当局者と衝突するなどの混乱が絶えないためだ。ただ、陳情で問題が解決することはほとんどなく、怒り絶望した人が過激なテロ行動に走る事件が続発している。当局はネット受付の充実で沈静化を図りたい考えだが、国民は「姑息なガス抜き」とさらに不満を募らせている。
「ネット受付により、陳情処理が人民監視の下に置かれる。同時に、地方政府による陳情処理の迅速化と透明性の向上にも努めたい」
ロイター通信などによると、信訪局の幹部は28日に開いた会見でこう語り、ネット受付システムでは、陳情者が自らの案件の処理の状況を確認できるようにする方針を示した。
発表によると、今年1月から10月までの陳情件数は前年同期比2.1%減の604万件。うち7月から始めたネット受付は13万件以上だったという。
中国では1950年代から国民が当局に苦情を申し立てる「信訪」という制度があり、地方、中央の政府や共産党の機関に窓口が設けられている。
ただ、もともと陳情で解決することはまれなうえ、陳情のほとんどは地方政府の役人の不正や土地収用への不満で、不祥事を表沙汰にしたくない地方政府が握りつぶすことも日常茶飯事。そのため、北京の中央政府に直訴する人々が急増した。
中央政府に知られたくない地方の役人たちは、窓口で陳情を妨害するだけでなく、北京に出かけた陳情者を強制的に連れ戻し、「黒監獄」と呼ばれる施設に監禁し暴行や虐待を加える事例も多数発覚。国際的な非難を浴びる事態になっている。
「私はあらゆる政府機関に出向き、16歳の息子が殺された理由の解明を陳情したが、15年たった今も(地方政府から)何の返事もない」。河北省●(けい)台(だい)市に住む女性、ザオ・ミンさんはAP通信に、こう不満をぶつけた。
鬱積した不満は次々に破裂。今年7月に北京国際空港で、10年も陳情案件が解決しないことに怒った車いすの男が、手製爆弾を爆発させた。10月には北京の天安門広場前で車が突入し炎上。11月には、窃盗罪で懲役9年の判決を受けたことに不満を持った男が、山西省の共産党委員会庁舎前で連続爆破事件を起こした。
ネット受付の充実は、こうした「陳情テロ」に対する当局の危機感の表れといえそうだ。ただ国民の反応は冷ややかで、農地を地方政府に強制収用された遼寧省の女性(58)は、「毎日のように役所の前に座り込んでも解決しないのに、ネットに書き込んでも、役人は無視するに決まっている。彼らを楽にさせるだけだ」と話す。
根本的な問題は「不公正な司法」にある。裁判所は事実上、地方政府の支配下にあり、裁判所長の多くは役人だ。世界的な人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、AP通信にこう訴えた。
「唯一の解決策は司法制度の独立を実現し、原告に正義を示すことだ」