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雨の日も楽しく 「気分をあげる」傘 鈴木マサルのテキスタイルブランド「OTTAIPNU」
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穏やかな口調でデザインについて語る鈴木マサルさん。刺繍の縫い目を1つずつ手描きした原画からはぬくもりが漂う=2014年4月25日、東京都渋谷区(矢島康弘撮影)
まもなく梅雨の季節がやってくる。空模様がさえないときこそ、お気に入りの傘を1本、パッとさして、気持ちを切り替えたくなるものだ。
そんな気分転換アイテムとしてうってつけなのが、テキスタイルデザイナー、鈴木マサルさん(45)がデザインした傘のコレクションだ。鮮やかな色使いと、楽しげな絵柄で、持つ人を楽しませる。5月8日から展覧会「鈴木マサル傘展-持ち歩くテキスタイル-」が始まるのを前に、そのデザインの魅力を探ろうと事務所を訪ねた。
鈴木さんによれば、傘には「雨を避ける」ともう1つ、重要な機能があるという。それは「気分をあげる」こと。
「だから華やかな色使いにこだわります。ぱあっと空に向け広げた瞬間に、その場の雰囲気を一変させ、傘をさした人の気分を盛り上げることができるように。それが街全体に広がったら、どんなにすてきでしょう」。常にそんなイメージを持ちながら、傘や布のデザインを手がける。
2005年、自身のファブリックブランド「OTTAIPNU(オッタイピイヌ)」を創設。傘シリーズ「オッタイピイヌ アンブレラ&パラソル コレクション」は11年に始めた。
オッタイピイヌのデザインには、動物のモチーフが目立つ。だが、どの柄も立体的な感じはなく、ペタンとして押し花のよう。たとえば鳥やホッキョクグマなどの輪郭や表情は無機質なまでにシンプル。しかし、手描きの風合いを残した描線から素朴な温かみがにじみ出ていて、独特でユーモラスなたたずまいが生まれている。
「動物はキャッチーなモチーフ。だけど、かわいらしくは描きたくない。どこかシニカルで、フォルムとして美しかったり、面白いものにして届けたい」と鈴木さん。だからデザインを起こす際、動物観察や図鑑を参照したりはほとんどしない。
アイデア帳にあった象柄の図案は、いずれも顔や胴体の細部は省略され、代わりに鼻はぐんと伸びたり、傘の枠をはみ出したり、自由にデフォルメされている。「たとえば江戸時代の象の絵は、奇妙だけれど面白い。それは本物を見たことがなく伝聞で想像を膨らませて描いたものだから。僕は本物を見たことがあるけれど、脚は実際こうだという事実に絵を引きずられたくはないんです」
今年の新作に「neko(猫)」という名の雨傘があるが、「ネコが好きな人は、これはネコじゃない、っていうんじゃないかな?」と笑う。
10年から北欧の老舗ブランド「marimekko(マリメッコ)」のデザインも手がける。ポップでモダンな北欧テキスタイルのプリント柄は、暗く長い冬ごもりの時期を明るく過ごす暮らしの知恵でもある。特に鈴木さんは「北欧のビンテージのプリント生地がもつ雰囲気や、たたずまいにひかれる。手仕事で染める際、柄合わせが少しずれ、意図しない色の重なりが生まれていて、それが美しい」と感じるという。
その温かみある色の重なりを、鈴木さんは「オッタイピイヌ」の生地にも生かす。手染めにこだわり、あえて色の上に別の色が重なる「重色」をデザインに取り入れる。「重色の色合いがどうなるかは、出たとこ勝負」。だから染色工場に出向き、黄色の上に青…と色を重ね、とうとう1枚の布に仕上がる瞬間がたまらなく楽しみなのだという。「ドキドキしますね。読めない部分もひっくるめて、ハンドプリントが大好きなんです」
工場のように殺風景な空間でも、そこにさっと布一枚を広げることでパーティー会場のようにすることもできる。そんなテキスタイルのマジカルな力をもっと知ってもらいたい、と鈴木さん。
「学校や会社でイヤなことがあった人が、僕のデザインしたバッグやハンカチを手にして、ぱっと気持ちが切り替わるというのが理想です」。どこか脱力系でユーモラス。そんな表情を持つオッタイピイヌのファブリック小物は、きっと持つ人の毎日を楽しく、元気にしてくれるはずだ。(文:津川綾子/撮影:矢島康弘/SANKEI EXPRESS)