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【ヤン・ヨンヒの一人映画祭】不器用なジャスミンに共感
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【かざすンAR(視聴無料)】映画「ブルージャスミン」(ウディ・アレン監督)。5月10日公開(樂舎提供)。(C)2013_Gravier_Productions,Inc. □映画「ブルージャスミン」
昨年(2013年)夏のニューヨーク滞在中、ポッカリ時間が空いたのでビレッジの映画館に向かった。「ウディ・アレン監督+ケイト・ブランシェット主演」という看板を見て迷わずチケットを買った。上映まで時間があったので近くのカフェに。私が何気なくテーブルに置いたチケットを見たショートヘアのウエートレスが「ケイト・ブランシェット最高だったわよ」と親指を立ててニッコリ。「あなたを信じるわね」と言いながら私はカプチーノを注文した。
映画の冒頭からジャスミン(ブランシェット)が“壊れている”。サンフランシスコに向かう飛行機の中、隣の席の婦人を相手にしゃべり続け、空港到着後もその婦人にまとわりついて誰も聞いていない話をまくし立てる。妹のみすぼらしいアパートに到着した後はタクシーの運転手に部屋まで荷物を運ばせて気前よくチップを払う。まるで5つ星ホテルに着いたのと錯覚しているようにも見える、高級ブランドで全身を包んだジャスミン。ニューヨークでのジャスミンの過去のセレブ生活と、落ちぶれて妹のアパートに転がり込んで来た現在のどん底生活が交互に見せつけられる。虚栄心の塊であるジャスミンはパーティーで知り合った外交官の男に擦り寄り人生の巻き返しを企むが嘘が全て露呈してしまう…。
“演劇的過ぎる”一歩手前ギリギリのところで抑えられたブランシェット(44)の演技が圧巻である。元々舞台出身の女優だが、世界中の名だたる監督たちの映画に出演する今もスクリーンと舞台を往還しながら役者としての精進を怠らないストイックな姿勢には頭が下がる。不幸と下品を寄せ集めたようなキャラクターを演じてもそこに気品があり知性がにじみ出る。が、それは決して物語の邪魔をしない。“壊れた”女を見ていた筈の私がいつの間にかジャスミンと自分の共通点を見つけ、共感したりヒリヒリしたり。そして周りの人間のズルさも見えはじめ、不器用なジャスミンと一緒にウオツカを飲みたくなったりもする。
ウディ・アレン監督(78)の多くの作品は、群像劇のように出演者全員に“スポットライト”があたり「世界はちょっと変な人たちが絡み合って出来てるんだよ」と言わんばかり。でも今回はジャスミンにピンスポットが当たりっぱなしな感じだ。最初からの演出意図なのか、偉大な女優がそうさせたのか想像しながら見るのも楽しい。「欲望という名の電車」の現代版?という思いは吹っ飛び、ただただ「ブルージャスミン」に酔いしれた。女を苦労させ、女で苦労したはずのアレン監督、“高い授業料”の元を取る術は是非とも見習いたいものだ。
悲惨な“人生転落モノ”映画を観た後なのに監督と主演女優への敬意で胸がいっぱいですがすがしい気持ちだった。映画を観る前にカプチーノを飲んだ同じカフェの前に立った。接客中だったショートヘアのウエートレスと窓越しに目が合った。私が両手の親指を立ててウィンクすると、彼女は大きく頷きながら笑顔を返してくれた。立ち寄ってビールを流し込みたい衝動を抑えながら、急ぎ足で自作のニューヨーク・プレミア上映会場に向かったのだった。5月10日、全国公開。(SANKEI EXPRESS)
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