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観客自身の記憶を呼び起こしたかった 映画「思い出のマーニー」 米林宏昌監督インタビュー
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スタジオジブリの最新作「思い出のマーニー」。原作は英国作家、ジョーン・G・ロビンソン(1910~88年)の児童文学で、舞台を英国から北海道に、ヒロインを日本人に置き換えた。監督は「借りぐらしのアリエッティ」の米林宏昌(よねばやし・ひろまさ、41)。宮崎駿(はやお)、高畑勲(たかはた・いさお)両監督が関わらない初のジブリ長編作品だ。
12歳の杏奈は幼いときに両親を亡くし、養父母とともに札幌に暮らしていた。あることがきっかけで、周囲に心を閉ざすようになっていた。ぜんそくが悪化したため、夏休みを利用して養母の親戚が暮らす道内の海辺の村に行く。
米林監督は「原作に『真珠色の空』という表現がある。本州よりも北海道のひんやりした空がぴったりかなと感じた」と話す。札幌から道南、さらに道東の釧路や根室を実際に訪れて風景を記憶し、作品の舞台を作り上げた。すべての背景美術には、美術監督の種田陽平が関わり、緻密で繊細な世界を生み出した。
杏奈は村の海辺で、入り江に面して建つ古い洋館を目にする。人が住まなくなってしばらくたっている様子だが、杏奈はそのたたずまいに心引かれる。やがて、杏奈は洋館を夢に見るようになる。夢の中で見た洋館には、金髪の少女がいた。
夏祭りの夜、杏奈は地元の中学生ともめ事を起こしてしまう。傷ついて洋館の見える海辺にたどり着いた杏奈の目の前に、夢で見た金髪の少女が現れる。少女の名はマーニー。華やかな雰囲気のマーニーは語りかける。「あたしたちのことは秘密よ。永久に」
原作では、登場人物たちの会話でストーリーが展開してゆく場面が多い。米林監督は「原作の文章的な面白さをどう映像で表現するか、とても悩みました。ただ、部屋のたたずまいや風景、時間の流れなど、絵にすることで表現できることもあるので、そこを魅力的にすれば面白い作品になるという確証がありました」と振り返る。
真っ赤なトマトに包丁を入れたときに感じられるみずみずしさ。湿地の水に足を入れたときの冷たさ。夏草の上を走る様子。細部が丁寧に描かれている。「物語をよりリアルに感じてもらうため、見た人自身の記憶を呼び起こしたかった」。そんな米林監督のマジックは、音楽にも生かされている。登場人物たちが何度もハミングする名曲「アルハンブラの思い出」は、夢と現実の境界をどんどん消してゆく。
昨年(2013年)、宮崎監督は「風立ちぬ」を最後に長編アニメから引退を宣言。約8年の歳月を費やした高畑監督の「かぐや姫の物語」が公開された。米林監督は「2人のいないジブリはこんなものか、とはいわせません」と力を込めた。7月19日、全国公開。(文:櫛田(くしだ)寿宏/撮影:財満朝則/SANKEI EXPRESS)