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「国債暴落論者」が喧伝する虚妄リスク 世界最大の純債権国・日本

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「国債暴落論者」が喧伝する虚妄リスク 世界最大の純債権国・日本

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日銀の国債保有と国債利回り(2011年8月~2014年8月)=※データ:日銀、CEIC 【国際政治経済学入門】

 安倍晋三首相は12月までに来年10月からの消費税率10%への再引き上げの可否を決定する予定なのだが、またぞろ、「日本国債暴落論」が噴出しそうである。証券アナリストの藤巻健史(たけし)氏らが急先鋒(せんぽう)だが、他の暴落論者も加わって今秋から年末にかけて盛り上がるだろう。暴落論は、予定通り増税しないと国債暴落のリスクが高まるとの増税催促論から、増税しても国債暴落は不可避という見方まで幅広い。

 「ドルの箱船」

 暴落論を分類してみると、まずは「日本は何をやってもダメ」という日本特有の終末予言スタイルで、代表例が上記の藤巻氏である。氏は今年6月出版の「迫り来る日本経済の崩壊」(幻冬舎)で、「日銀による国債購入の約束は今年の12月まで。買いをやめれば国債と円は暴落し、一気にハイパーインフレに! ドル資産を保有する者だけが生き延びる」とのうたい文句で、「ノア」ならぬ「ドルの箱船」に乗れと勧めている。

 このミソは、米連邦準備制度理事会(FRB)がドルを大量発行する量的緩和の縮小を始めたことや、景気の好転から利上げが検討される結果、ドル高すなわち円安に向かうという市場の風向きを踏まえている点だ。藤巻氏ご本人は円資産を売って、ドルで運用されているのだろうか。

 消費税率を10%に上げても、日銀が量的緩和を中心とする異次元緩和政策を強化しても効果はないという理論の代表例が、野口悠紀雄(ゆきお)・一橋大学名誉教授で、「金融緩和で日本は破綻する」と警告している。野口さんは日本再生には規制改革が最も有効という持論だが、金融緩和抜きで脱デフレを実現できるのだろうか。

 何かのはずみで

 量的緩和しても国債暴落するという論議にはさすがに財務省もあせるだろう。異次元緩和で国債金利を低く下げ、国債の利払い負担を減らす(グラフ参照)。同時に消費税増税も実現したい。そんな財務官僚のニーズに合わせた論理が国債暴落の「テールリスク」論である。

 テールリスクとは、「めったに起きない事象だが、何かのはずみで突然起きる」という理論で、日本国債に当てはめると、消費税増税を見送れば暴落リスクが高まる、ということになる。

 昨年9月初めには伊藤元重(もとしげ)・東大教授が言い出して、黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁が同調するに至り、安倍首相に消費税増税を決断させる殺し文句になった。財務省御用の学者のみならず、国債問題専門家として評判の高い高田創・みずほ総合研究所チーフエコノミストや金融業界首脳も同調しているので、この論議の影響力は極めて高い。消費税増税を予定通り、再引き上げしろという、財務官僚や自民党内の増税派を勢いづける。

 税収増えねば…

 安倍首相は今度も、この論議に屈するだろうか。首相は周辺に「増税しても税収が増えなければ意味がないじゃないか」と漏らしている。筆者はまさにこのポイントを以前から指摘してきたし、その論考は安倍首相の手元に届いているとも、首相周辺から聞いた。

 1997年度の消費税増税後、消費税収の増収分よりも法人税、所得税など他の基幹税収の減収額が大きかったために、増える社会保障関係費もまかなえず、財政収支が大きく悪化した事実は重い。

 財務官僚が事実上支配する内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(7月25日付)で経済成長率「1」に対する一般会計税収の伸び率(税収弾性値)を「1」とし、消費税率を継続的に引き上げないと財政赤字膨張に歯止めがかからないというシナリオを首相に提示した。

 ところが、これまでの実績では弾性値は「3~4」に達することが、内閣府の別の試算で証明されている。弾性値を「3」とすれば、名目経済成長率2~3%を維持することで、財政均衡目標は達成できる計算になるのに、内閣府はそれを隠した。

 もともと国内貯蓄で政府債務の9割以上が吸収される世界最大の純債権国、日本で国債暴落が起きる恐れがないから日本国債は市場不安時の世界の投資家の逃避先となってきたのだが、財務省にすり寄る論者たちが虚妄のリスクを喧伝(けんでん)して増税を促すのだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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