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【アジアの目】インドネシア・ジョコ大統領の「働く内閣」 軍の支持が鍵
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インドネシア・首都ジャカルタ 第7代インドネシア大統領に就任したジョコ・ウィドド氏(53)が指名した閣僚34人が27日、承認され、ジョコ内閣が発足した。かつて日本で「さあ働こう内閣」とキャッチフレーズをつけたのは福田赳夫元首相だったが、ジョコ大統領も新内閣のキャッチフレーズを「働く内閣」とし、顔ぶれも実務家を多く配置した。
新内閣の目玉政策である海洋開発担当の海事担当調整相ポストを新設したほか、インドネシアでは初の女性外相を起用するなど民間出身の大統領として独自カラーを出すことに腐心した。ただ、インドネシアの経済成長もここに来て足踏みしているだけに、これまでの既得権益を打破するとともに、大統領が掲げる「海洋国家インドネシア再興」に向け、国軍の支持を得られるかが課題だ。
「閣僚は慎重かつ細心の注意を払って選んだ。この内閣は今後5年間は続くからだ。裏情報を手に入れるため、汚職撲滅委員会(KPK)や金融取引・報告分析センター(PPATK)にも調査を依頼した」
ジョコ大統領は26日、大統領宮殿の中庭で行われた記者会見で、閣僚名簿を発表するにあたってこう説明。賄賂や不正支出など金の問題がないかどうかを、徹底的に調べあげたことを強調した。
日本での2閣僚の辞任を気にしたわけではなく、インドネシアはユドヨノ前政権からとくに汚職防止に力を入れてきた。大統領のこだわりのおかげで、いったん固まっていた閣僚のうち数人が汚職撲滅委員会などの指摘で問題ありとされ、再検討した結果、閣僚名簿の発表が当初予定よりも遅れていた。
一方、ジョコ大統領が就任演説で宣言した「海洋国家インドネシア再興」を実現すべく、新設された海事担当調整相には、国連食糧農業機関(FAO)の漁業・養殖局の漁業・海洋資源部長を務めていたインドロヨノ・スシロ氏(59)が選ばれた。数千の島々を抱えるインドネシアだけに漁業や水産資源開発にとどまらず、島々の連結性を高めるための港湾や航路の整備などを一元的に行うことになるという。
ただ、インドネシア海域ではほんの数年前まで海賊が跋扈(ばっこ)し、マラッカ海峡から南シナ海にかけて、多くの船舶を襲撃した。最近はインドネシア周辺で中国艦艇の進出も目立つ。海軍力の増強も併せて行わない限り、海洋国家の再興は容易ではないだろう。
経済関係閣僚の顔ぶれをみると、政治家を多く起用したユドヨノ前政権とは異なり、ソフヤン・ジャリル経済担当調整相(61)以下、ほとんどが実務家だ。もっとも、彼ら経済閣僚にも、政党に所属していないがジョコ政権を支える闘争民主党のメガワティ党首に近い人が多い。なかでもリニ・スマルノ国営企業相(56)はメガワティ氏の側近中の側近。アリフ・ヤフヤ観光相(53)、スディルマン・サイド・エネルギー・鉱物相(51)もメガワティ氏に近い経営者だ。
メガワティ氏に近いといえば、プアン・マハラニ人間・文化開発担当調整相(41)はメガワティ氏の長女だけに、会見では「私が娘だということばかり取り上げないでほしい」と強調した。娘というだけでなく、政治家としての経験や人脈も豊富で、新内閣では強い影響力を持ちそうだ。それだけに、ジョコ大統領が、メガワティ氏をはじめとする既成勢力の圧力に屈せず、どれだけ独自色を出せるかが改革実現の鍵でもある。
同様に国軍をいかにコントロールするかも重要だ。ユドヨノ前大統領は、自身が改革派の将校といわれつつ、軍での実績を背景に影響力を保持した。しかし、ジョコ大統領は軍隊経験、人脈がほとんどない。ユドヨノ前大統領でさえ、軍の支持を得るために、兵士の待遇改善に腐心したこともある。
ジョコ新内閣では、政治・法務・治安担当調整相に元海軍参謀長のテジョ・エディ・プルディヤトノ氏(62)を任命。また、国防相には、やはりメガワティ氏側近のリャミザード・リャクドゥ元陸軍参謀長(64)を起用した。2人は、ともに国軍時代に治安維持などを理由に強権を振るったことで、国民人気が極めて低いものの、国軍内での影響力は強い。
「ジョコ氏は組閣で妥協を強いられた」(現地紙ジャカルタ・ポスト)との批判はあるが、果たして、この内閣が5年間続くのか、それとも早期に内閣改造を迫られるのか、先行きに注目したい。(編集委員 宮野弘之/SANKEI EXPRESS)