【野口裕之の軍事情勢】未然防止不可能な生物・化学兵器テロ勃発は「起こるかもしれない」ではなく「いつ起こるか」
更新肺炭疽兵器の「悪魔性」について、米議会・技術評価局が以下報告している。
《晴れた夜、大都市の30平方キロメートル地域に炭疽菌10キロを散布すれば、最高90万人を殺傷できる。100キロの乾燥炭疽菌の粉をまけば、被害は最大1メガトンの水素爆弾に匹敵する》
広島市に投下された原子爆弾の最大65倍前後の殺傷力を伴うと言い換えられるが、核物質でも爆薬でもない炭疽菌は、地球上の至る所に自然分布する。既述の肺炭疽は気道感染で始まるが、症例の95~98%を占める《皮膚炭疽》で説明すると理解しやすい。高地で仕事をする林業・農業従事者らに傷口が有る場合、炭疽菌に汚染された土に触れ感染。真っ黒に変色して壊死する。炭のように変色するため炭疽という不気味な名が付いた。ヒツジやウシなど動物の体毛にも着いており、獣医や動物産品処理従事者への罹患危険性は否定できない。
未然に防ぐ手段は? 残念ながらない。何しろ、土から菌を取り出す過程は標的にした国家・自治体内で現地調達すればよい。テロリストは探知機器・特殊犬が反応する武器や爆発物を持参せず手ぶら侵入するのだ。現時点での対抗策は、事後的な被害拡大防止体制の飛躍的充実に、ほぼ限られる。
