【木下隆之のクルマ三昧】実は自動車開発の王道? ジムニーが「サイ」にこだわるわけ
更新かつてホンダが、特異な低重心ミニバンである「オデッセイ」を開発したとき、エンジニアが共有する極秘資料の片隅に、「黒豹」がプリントされていたのを盗み見たことがある。黒豹はあのサバンナを駆け回る黒豹のことである。「ファミリーカーのオデッセイとは違和感のある組み合わせだなぁ~」と首を傾げていたそこに、開発担当者が歩み寄ってきて僕にこう言った。
「クロヒョウなんてイメージじゃないですよね。でも、開発スタッフがこれを見ながら作業することでコンセプトが乱れないのです」
なるほど、完成したオデッセイは、低重心ゆえに入りが際立っており、ミニバンとしては異例に入りが優れていたのだ。
◆開発担当者のデスクの上にも…
ちなみに、オデッセイのイメージカラーはダークパープルだった。技術者だけでなくデザイナーもテストドライバーも、そして広告宣伝部のメンバーも、それこそカタログを製作する部署の面々にも、黒豹という統一意識が植え付けられる。というように、動物を象徴的に掲げることで、コンセプトが乱れないのである。
ジムニーはもう48年も生きてきた。最新の技術が投入されてきた。だが、生き様にはまったくブレがない。
「ジムニーの開発事務所にもサイがたくさん貼っているんじゃないですか?」
開発担当者にそう聞くと、嬉しそうな笑みを浮かべてこう答えてくれた。
「ポスターはもちろん貼ってありますけど、デスクの上はサイのぬいぐるみが散乱しています」
サイが一層愛おしくなってきた。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。




