「黒田日銀」始動、大胆な金融緩和推進 「物価目標達成へあらゆる手段」
2013.3.22 07:00更新
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は21日、副総裁の岩田規久男、中曽宏両氏とともに、安倍晋三首相から官邸で20日付の辞令を受け取り、新体制を本格始動させた。政府は21日、白川方明前総裁の残り任期が切れた4月9日以降の黒田氏の再任を求める国会同意人事案を、衆参両院に提示した。これを受けて日銀本店で記者会見した黒田総裁は「2%の物価上昇目標が達成できるまで、可能な限りあらゆる手段を講じる」と大胆な金融緩和の実施に意欲を示した。
黒田総裁は、2%の物価上昇目標について「諸外国の例から2年というタイムスパンを念頭に置きながら、達成に向けて全力を尽くす」と述べた。その手法は「量的、質的に大胆な緩和を進める。両面から進めることで物価目標は達成できる」と踏み込んだ。日銀の新体制は市場に対し、デフレ脱却の「約束手形」を切った異例の形だ。
大胆な金融緩和がもたらす副作用についても触れ、「いまバブルの懸念があるとは考えていない」と強調。大量の国債の買い入れが、政府の財政赤字の穴埋めとみられる可能性に関しては「中央銀行が金融緩和の手段として国債を購入することは当然で、財政ファイナンスにはならない」との考えを示した。ただ、「政府が中長期的に財政規律を守ることは重要だ」とも語り、政府に財政健全化に取り組むよう促した。
安倍政権の掲げた「大胆な金融緩和」の公約を引き継ぎ、市場の追加緩和期待を高める黒田氏らの姿勢は、足元の円安・株高基調を後押し。輸出企業の業績改善や資産価値の上昇が、景気改善を促す好循環を生んでいる。ただ、この市場との蜜月関係を今後も維持できるかは不透明だ。
投資家が想定する緩和策を打ち出せるうちは、円安や長期金利の低下(国債価格の上昇)といった日本経済に心地良い市場環境が続く見込み。だが、「先行期待が大きい分、緩和策が出尽くしたとみえると、円の先安感が急速にしぼむ懸念もある」(大手証券)
日銀によると、1980年代後半のバブル期でも物価の上昇率は平均1.3%止まりだ。2%の物価上昇の早期達成のハードルは高く、追加緩和と物価上昇の相関関係に十分な説得力を示せないと、新体制は市場や消費者のデフレ脱却期待をつなぎ止められない。
一方、黒田新体制は、安倍政権との二人三脚で歩み出すが、今後政治との距離感をどう保つかという課題も抱えそうだ。
黒田氏は「緩和の中心は国債購入になる」としているため、緩和を拡大するほど、財政ファイナンスの懸念は根強く残る。また、潜在成長率の底上げを伴わない形で、物価だけが上昇すれば家計の負担感が増すばかりだ。
政権との良好な関係を持つ黒田氏が、財政再建や規制改革・構造改革の取り組みに厳しい直言ができるかが問われている。