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カンボジア、7月総選挙 首相の息子出馬、世襲へ布石

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カンボジア、7月総選挙 首相の息子出馬、世襲へ布石

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 カンボジアは7月28日、5年に1度の総選挙の投票日を迎える。外資導入を軸にした経済政策が奏功し、国内総生産(GDP)成長率は今年も7%を超えると推測され、好調に伸びている。フン・セン首相(62)の与党・カンボジア人民党は、目立った政敵もなく、圧倒的勝利をおさめるとみられている。

 いまや東南アジアで最も在任期間が長い首相となったフン・セン首相だが、この選挙で注目されるのは「世襲への布石」だ。地元紙などによると3月下旬、与党・人民党は今回の選挙で、首相の三男フン・マニ氏(30)の擁立を固めた。35歳と31歳の他の2人の息子も出馬が噂されている。

 「奇跡が起きた」

 この世襲の前提条件となる安定政権を維持するためか、フン・セン首相はすでにあちこちで選挙を意識した発言や行動を繰り返している。

 例えば今年2月。シアヌーク前国王の葬儀後では初めての演説の場で、フン・セン首相は「奇跡が起きた」として、火葬場でのエピソードを紹介した。

 話はこうだ。葬儀の日、シアヌーク前国王の妻・モニク妃やシハモニ国王が火葬を始めるために着火しようとしたが、たびたび失敗。5度目にフン・セン首相が1人で着火したところ初めて成功した、というものだ。

 フン・セン首相は、モニク妃が「前国王はあなたをお待ちしていたのでしょう」と語った、と披露した。

 また、3月21日に発表された縫製業労働者の最低賃金引き上げでは、現行の月額61ドル(約6000円)から78ドルに引き上げる素案が固まった後、「フン・セン首相の直接の指示」で2ドルが加算され80ドルになった、と政府が発表した。

 カンボジアでは、賃金を含む労働条件の改善を求める要求やストライキが縫製業を中心に頻発、激化し、政府と労使による賃金引き上げ交渉は暗礁に乗り上げていた。この引き上げで事態は沈静化したが、根拠不明の2ドル加算が「首相の鶴の一声」だったことをアピールするあたり、選挙を意識したパフォーマンスと指摘されている。

 賃金など不満

 安泰とされる与党だが、一方で経済発展と裏腹に深まる不安要素もある。

 地元紙によれば、東部コンポンチャム州で4月に行われた国道拡張工事起工式では、集まった地元の人々を前にフン・セン首相はこう語った。「道路、学校、寺院、潅漑(かんがい)施設などのインフラ事業は、国家予算というよりも人民党員である軍人、農民、ビジネスマンや投資家たちが自らの財源を注ぎ込んだもの。もし国民が人民党に投票しなければ、こうした施しもなくなるだろう」

 また、今回の選挙の争点ともなりそうなのが、労働問題と土地問題だ。最低賃金引き上げをめぐる動きはとりあえず収まったが、カンボジアの賃金は周辺諸国と比べてまだ低い。より高い賃金を求めてタイなどへ出稼ぎに出る人も増えており、不満を抱える労働者は多い。

 急速な開発に伴う強制立ち退きなど、土地所有をめぐる問題が都市部を中心に頻発している。経済発展に伴う貧富の格差の拡大が目立つようになり、もともと野党支持が根強い都市部では、フン・セン首相も「安泰」とばかり言っていられない。

 実際、今夏の総選挙の前哨戦となった昨年の地方選では、プノンペンなど都市化が進む地域での与党の得票率が50~60%台で比較的低かった。一方で、二大野党(サム・ランシー党、人権党)の合計得票率は約31%で、2002年の17%、07年の25%から伸び続けている。

 二大野党は昨年10月、今回の選挙に向けて合流し「カンボジア救国党」を結成した。選挙協力で与党批判票の受け皿になろうという狙いで、与党の支持基盤をどこまで揺るがすことができるか、注目されている。(在カンボジア・ジャーナリスト 木村文)

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