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アベノミクスで「資産効果」頼み脱却へ 賃金上昇が本格消費の鍵
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経済財政諮問会議で答申を受けた後、あいさつする安倍晋三首相=13日午後、首相官邸
安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」は、この半年で消費拡大の裾野を確実に広げた。高額商品を購入する富裕層だけでなく、中間層や低所得層の消費心理が改善したためだ。ただ、その持続性に関しては疑問の声もある。資産の一部を消費に充てる「資産効果」頼みから脱却し、賃金上昇で家計を本格回復させることが、本格消費につなげる近道だ。
「間違いなく“打率”が上がった」。高級腕時計「ロレックス」の売り場を今月7日に2.4倍に拡充したそごう千葉店(千葉市)。売り場担当者は半年間でガラリと変わった売り場の風景を野球に例えてこう表現した。
ショーケースには40万~900万円までの腕時計約300本が並ぶ。改装オープン以降、平日の昼間から客足が絶えない。これまで高級腕時計の購入は、予算との兼ね合いで悩む来店客が多かったが、先行きに明るさが見えたことで、最終的には購入に傾くケースが急増した。
売れ筋は「サラリーマンでも無理をすれば手の届く」(担当者)とされる数十万円台の時計だ。11日までの売り上げは前年同期比で4倍を超える。
自動車業界は昨年9月に終了したエコカー補助金制度の反動減で、今年の国内新車販売が前年比11.7%減の474万台に落ち込むと見込んでいた。しかし、「アベノ消費」はその心配を吹き飛ばす勢いだ。軽自動車中心に販売が堅調で、業界関係者は「500万台超えも視野に入る」と予測する。
輸入車も好調で、5月の外国メーカーの国内新車販売は前年同月比17.7%増の2万695台。なかでも、300万~600万円台が売れ筋のメルセデス・ベンツやBMW、アウディのドイツ勢は約2~6割増と市場の伸びを上回った。メルセデス・ベンツの日本法人では「乗り換えではなく、新規のお客さまが増えた」という。
「アベノミクスの効果は、先行きの不安感を減らし、もともと購買力のあった人を消費に踏み切らせたこと」とSMBC日興証券の金森都シニアアナリストは指摘する。富裕層も中間層も、それぞれの懐に見合った金額の買い物に走り、財布のひもを緩め始めている。
家電量販店では、久々にテレビ売り場がわいている。フルハイビジョンの約4倍の解像度「4K」に対応した「4Kテレビ」が店頭に登場したためだ。大画面でも高精細な映像を楽しめるのが特徴。液晶テレビの不振で苦しむ家電業界の救世主として期待される。
ソニーの売れ筋は5月下旬に投入した65型(想定価格約75万円)。売り場担当者は「家を建て替えたシニアや初めてマンションを購入した若い夫婦が購入するケースが多い」と話す。東芝やシャープも今月、4Kテレビの商品群を拡充する。
高機能の調理家電も売れている。家庭で食事をとる「内食」ブームが追い風になっているが、「暮らしぶりに余裕が出てきた証拠」(業界関係者)との見方もある。パナソニックが5月下旬投入した高級炊飯器の想定価格は約11万円から11万5000円。従来品から約1万5000円高くなったにもかかわらず、発売3週目で前年比約2.1倍の売れ行き。シャープが4月投入した高級ジューサー(約3万6000円)も月5000台の販売計画を上回って推移している。
住宅関連業界でも追い風が吹いている。景気回復への期待感だけでなく、来年4月の消費増税に加え、最近では住宅ローン金利の先高感予測が強まっていることもあり、駆け込み需要に拍車がかかっている。
例えば、三井不動産レジデンシャルでは、大型連休中のマンションのショールームの見学者数が前年同期比3割増えた。住宅建材も「工務店からの受注が増えた」(LIXILグループ)という。業界団体の住宅生産団体連合会の予測では、2013年度の新設住宅着工戸数は92万1000戸で、前年度(89万3000戸)より増える。
一方で、景気のバロメーターとされるオフィスの平均賃料は東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)で坪当たり1万6467円(5月末)と下落が続く。「空室率は低下してきたが、人気は新築ビルに集まり既存のビルは価格を下げている」(三鬼商事)。中長期的には賃料は上昇に転じるとの見方が強いが、これまでのところ、表面上はまだ見えない。
旅行分野では「プチぜいたく」が目立つ。マレーシアのクアラルンプールから羽田空港と関西空港に就航している海外格安航空会社(LCC)のエアアジアXは、通常のビジネスクラスに相当する「プレミアムクラス」が人気を集める。
羽田路線では、5月の同クラスの利用者数が前年同月比で20%も増えた。2路線合計でも10%増で、同社が就航する国の中では最も伸び率が高いという。
LCCだけに、もともと運賃はエコノミーで1万1000円からとかなり安いが、同クラスも4万7000円からと、大手航空会社のエコノミーすら下回る。180度のリクライニングが可能なシートを備えるなど、快適性が高い上に割安感があることが好評の理由だ。
一方、東京都内のある大手タクシー会社では、政権交代後の昨年12月から落ち込んでいた売り上げに反転の兆しが見え始め、「4~5月は対前年比2~3%増になった」という。伸びているのは個人客で、近距離での利用回数が増加。一方、チケットなどを使う長距離の法人需要はトントンだという。
東京ハイヤー・タクシー協会の藤崎幸郎専務理事も「主な30社の合計の売り上げは、4月は前年同月比0.2%減だったが、5月には2.8%増に転じた」と話す。
しかし、回復傾向は地方には届いていない。栃木県タクシー協会の担当者は「景気が良くなっているとは聞かない」と明かす。ある運転手は「給料が上がって、飲み屋が忙しくなって、初めて景気回復の恩恵を受ける。あと1、2年はかかる」とため息をつく。
第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは「今の消費は足元の株安で勢いが衰えても、消費増税前などの駆け込み需要で盛り返す可能性もあり得る。来年以降に賃金上昇が本格化するかどうかが、持続的な消費拡大が実現するかどうかの鍵を握る」と話している。