ニュースカテゴリ:政策・市況
市況
インフレ期待で国債人気 「変動10年」「物価連動債ファンド」に妙味
更新
固定・変動国債の発行額の推移 デフレ脱却に向けた安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」を背景に、投資対象としての国債への関心が高まっている。個人向け国債は、償還期間10年の変動金利型を中心に人気で、10月発行分の総販売額は1年前の約3倍に膨らみ、5年3カ月ぶりの高水準となった。また、財務省は今月、額面(元本)などが物価に応じて変動する国債「物価連動債」の発行を5年ぶりに再開。金利や物価が今後、上昇するとみる投資家が、リスク回避の手段として活用しているようだ。
財務省によると、9月に証券会社や銀行などを通じて販売した個人向け国債(10月発行分)の総額は8930億円。1年前の3034億円から大きく膨らんだ。個人向けには「変動10年」「固定5年」「固定3年」の3種類があり、販売額の75%を変動10年が占めた。
固定金利型は金利低下リスクを回避できる一方で、金利が上昇した場合は恩恵を受けられない。金利の先高観が変動型の販売を拡大させた格好だ。2008年10月の発行分では販売額の9割近くを固定型が占めていたように、金利の先行きの見方により人気のタイプは入れ替わる。
販売が増えたのは、金利の先高観による変動型の人気のほか、個人向け国債の大量償還が始まったためだ。03年3月に個人向け国債の発行が始まった当時、変動10年のタイプしかなかった。販売額は同年7月までの3回の発行で1兆円を超えた。これが償還期間の10年を経て、購入者の口座に戻り、その資金の一部が、再び国債の購入にまわったと考えられる。
もう一つは、金融機関がこれまでよりも、販売に力を入れたことだ。10月発行分の45%に相当する4038億円を売ったのは、証券最大手の野村証券。持ち前の営業力を発揮したほか、100万円以上200万円未満の購入者に3000円を贈るなど、購入金額に応じたキャッシュバックキャンペーンを実施した効果が出たようだ。
各社が注力する背景には、年100万円までの投資にかかる税が免除される少額投資非課税制度(NISA)をめぐる競争がある。原則、元本が保証される個人向け国債は「投資への第一歩を踏み出していただける商品」(野村証券の山本泰正商品企画部長)として、初心者の囲い込みに最適だからだ。現に、野村は10月発行分の販売が、約4800の新規口座の開設につながったという。
個人投資家の間では、物価連動国債に投資するファンドへの関心も高まりつつある。
財務省は今月10日、連動債を約5年ぶりに発行。約3000億円の発行予定額に対し、応募は1兆1231億円で倍率は3.7倍と好調だった。同省にとって、資金調達手段の多様化につながるほか、入札額を通じて金融機関のインフレ期待を把握することが可能になるメリットがある。以前の連動債と異なり、物価が下落しても満期時には元本が保証されるのが最大の特徴だ。
個人投資家は連動債を直接購入できないが、連動債を扱うファンドに投資することで、日銀の「異次元」緩和による物価上昇局面でも金融資産が目減りするリスクに対応できる。発行再開前も、以前発行された連動債を組み入れてファンドを設定し、その後、新発債と入れ替えていく形で、すでに新商品も登場している。
横浜銀行は先月、連動債ファンドの販売を始めた。同行は昨年末からの市場環境の変化をみて、「預金がインフレで目減りするのを避けたいという強い顧客のニーズがある」(担当者)と判断し、大和証券投資信託委託にファンドの組成をもちかけた。これまでに30億円近くを販売しており、「顧客からの問い合わせも増えている」という。
みずほ投信投資顧問が運用する連動債ファンドも、8月末から1カ月ほどで資産総額が約2割増えた。販売する金融機関も8月末から銀行6社、証券2社が増えたといい、「ほかにも『販売したい』という問い合わせが数社あり、非常に手応えを感じている」という。
今月25日に発表された9月の全国消費者物価指数(CPI)は、値動きの大きい生鮮食品を除いたベースで100.5となり、前年同月比0.7%上昇した。上昇は4カ月連続だ。野村証券の水門善之エコノミストは「日銀が2%の物価安定目標を掲げる中、今後の基調的な物価上昇は継続する」とみている。
来年1月以降には、月々1兆円を超える個人向け国債の大量償還が始まる。金利や物価の先高観から、変動金利型の個人向け国債や物価連動債ファンドの人気は続きそうだ。(高橋寛次、佐藤裕介)