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【アセアニア経済】シンガポール、外国人雇用規制強化

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【アセアニア経済】シンガポール、外国人雇用規制強化

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 ■人件費抑制へ日本のノウハウに期待

 シンガポール政府が、外国人労働者の流入・雇用規制を一段と強化している。シンガポールでは若者を中心に経済格差拡大へ不満が募っており、最近の選挙で与党の連敗につながったとの見方もある。規制強化は、自国民の賃金水準改善を狙った政権側の危機感の表れともいえそうだが、企業からは人件費上昇や人材難につながるとの懸念も高まっている。

 ◆基本給下限引き上げ

 「長時間や不規則な労働をしたがるシンガポール人はあまり多くない」-。中小企業協会のチャン・チョンベ会頭は、政府が9月23日に打ち出した外国人雇用規制強化策が、自国民の雇用環境改善に直結せず、人材募集が難しくなるといった悪影響を及ぼしかねないと指摘する。

 新たな規制は、海外からの管理・専門職への就労ビザ(EP=エンプロイメント・パス)の発効条件を見直し、来年1月から基本月給の下限を3000シンガポールドル(約24万円)から3300シンガポールドルに引き上げる内容。同8月からは、EP申請前に地元人材を対象とした求人広告の掲載も義務づけ、事業者に現地採用を促す。

 海外からの若手人材に依存するIT(情報技術)業界などからは「人材を現地人に置き換えても従来の成果は見込めない。外国人社員の給料を上げるしかない」(中堅幹部)と、規制強化への反発も上がる。

 シンガポールは海外からの直接投資をてこに、高い経済成長を維持してきた。半面、家賃は高騰して物価も上昇。大学を卒業しても満足できる仕事が見つからないシンガポール人は多く、自国民の中でいかにホワイトカラーや専門職を増やしていくかが大きな課題だ。

 これまで絶対的な優位を誇ってきた与党・人民行動党は、2011年5月の総選挙で過去最低となる60%の得票率を記録。今年1月26日の国会補欠選挙でも野党に敗れた。EP発効の基本月給下限は、11年7月に2500シンガポールドルから2800シンガポールドル、12年1月には3000シンガポールドルとなり、今回は3度目の引き上げだ。

 締め付けは、中技能労働者を対象とした就労ビザ(SP=スペシャリスト・パス)でも行われており、これらの外国人労働者に頼ってきた小売業を直撃している。シンガポールでは日本食ブームで有名ラーメン店の出店も多いが、店員確保がままならず「進出をあきらめたり、日本から短期ビザで店長を派遣するなど苦戦している」(日系人材派遣業者)という。

 ◆ユニクロなどに支持

 シンガポール政府もこうした事情を認識し、人件費抑制につながる設備投資への優遇措置を導入したほか、サービス業での生産性向上も模索している。今月4日には、日本貿易振興機構(ジェトロ)とシンポジウムを共催した。シンガポール規格生産性革新庁(SPRING)のテッド・タン次官は「日本企業から“おもてなし”を学んで仕事の質を向上していきたい」と日本の参加者に呼びかけた。

 シンガポールには小売りやサービス業に対する外資規制がなく、カジュアル衣料品の「ユニクロ」や、100円ショップ「ザ・ダイソー」(現地では2シンガポールドル均一)、10分ヘアカット「QBハウス」など、日本からも大手チェーンが多数進出し、現地の消費者から支持を得ている。人手を抑えながらの商品陳列や接客といった日本企業のノウハウも好評の大きな要因だ。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は2015年の経済共同体発足を目指している。日本企業が、外国人労働者の流入規制強化を克服したビジネスモデルを構築できれば、シンガポールが「拡大するASEAN市場の橋頭堡(きょうとうほ)になる」(タン次官)との期待も高まりそうだ。(シンガポール 吉村英輝)

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