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沖縄民謡とタイ伝統音楽 「運命の出合い」 在バンコク邦人、コラボ公演企画

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沖縄民謡とタイ伝統音楽 「運命の出合い」 在バンコク邦人、コラボ公演企画

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 いつか、どこかで耳にしたような懐かしい音色。歌い継がれて、もう何十年もたつというのに、一向に衰えを知らない温かなメロディー。タイ東北部(イサン地方)に今も伝わる伝統音楽「モーラム」と、かつてタイと交易関係にあった沖縄地方に残る沖縄民謡のコラボ公演を実現させようと、精力的に取り組む在バンコク日本人がいる。なぜ沖縄とタイなのか。企画したいきさつなどを取材した。

 ◆歴史に共通性

 公演を主催するのはバンコクで沖縄料理店「金城」を営む大高昇平さん(39)。タイで生活するようになって9年が経過した。昨年2月、知人のすすめにより同店で開いた沖縄民謡のライブ公演が大好評だったため、より多くの日本人やタイ人にも知ってもらおうと、今年は高級ホテルのバーを借り切って上演することを決めた。かねてから夢に抱いていたタイの伝統音楽モーラムとのコラボ共演も実現させることにした。

 なぜコラボなのか。大高さんは「ともに似通ったゆっくりとした旋律が特徴。きっとマッチするはず」と話す。それ以外にも、2つの伝統音楽に見られる演奏スタイルなどいくつかの「共通性」を挙げた。男女の出会いや慶事の場で伝統楽器三線(さんしん)を使って即興で演奏された沖縄民謡。古い時代のモーラムも同じように、地域の人々の寄り合いや宴席の場で、竹管楽器のケーンを使った即興の歌が誰からともなく披露されていたという。

 ともに譜面や歌詞が後世に残るようなことはほとんどなく、メロディーに載せた即興というスタイルのみが、それぞれ伝統として残ったのが特徴だ。

 大高さんは南国の暮らしが大好きで、24歳の時、半年間をかけて沖縄地方を旅した。この時に接した沖縄民謡が彼の心に刻まれた。それから6年後。今度はタイの日系メーカーに就職した。イサン地方の玄関口コラート(ナコーンラーチャシーマー県)にある工場に赴任すると、モーラムの旋律がどこからともなく流れてきた。その瞬間、大高さんの脳裏に沖縄の原風景が広がった。大高さんは「タイの伝統音楽との運命的な出合いだった」と振り返る。

 調べてみると、アユタヤ王朝時代の15世紀から16世紀後半にかけて、沖縄とシャム(現在のタイ)との間には交易船が就航し、50隻以上もの船が数々の物資を積んで両国を往復していたことが分かった。琉球王朝時代の歴史をつづった「歴代宝案」によれば、沖縄からは中国産の陶磁器や絹織物、硫黄などが南国に渡り、シャムからはコショウやタイ米のほか、染料や漢方薬の材料となる蘇木などが沖縄に持ち込まれていたともいう。沖縄の地酒「泡盛」の製法がシャムから伝わった可能性が極めて高いことは知っていたが、ここまで沖縄とタイが古くから親密であるとは思いもしなかった。

 ◆平和の象徴に

 大高さんは約4年間のサラリーマン生活に終止符を打ち、5年前に「金城」の経営を始めた。白、赤、緑、黄など原色を基調とした店作りは、沖縄とイサン地方の文化を意識してのことだ。店内に流す音楽も、もっぱら沖縄民謡など伝統音楽ばかり。「民族や人種、文化の垣根を越え、誰もが気軽に立ち寄れる。そんな平和の象徴のような沖縄大衆食堂を目指したい」と大高さんは話す。

 沖縄民謡とモーラムのコラボ公演は、沖縄から芸歴57年、沖縄民謡の第一人者として知られる大城美佐子さんと弟子の堀内加奈子さんを招く。イサンからはケーン奏者のサワイ・ゲーウソムバット氏がステージに立つ予定だ。

 500年以上の時を越えて、タイの首都バンコクで相まみえる沖縄民謡とモーラムの伝統音楽のコラボは、11月1日午後7時、バンコクのインペリアル・クイーンズホテル1階にあるサンダーナーズバーで幕が開く。公演の問い合わせは、沖縄料理店「金城」(kinjobkk@hotmail.com)。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀晋一)

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