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日本海に出口を持たない中国…今こそ環日本海経済圏の主導権握る時

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

日本海に出口を持たない中国…今こそ環日本海経済圏の主導権握る時

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【世界鳥瞰】

 9月の第1週、残暑の東京から韓国・仁川空港経由でロシア沿海州の中心都市、ウラジオストクに降り立った。そこは既に肌寒く、季節が2カ月ほど先に進んだような印象を受けた。広大な領土を持つロシアは、モスクワとウラジオストクの間で7時間もの時差がある。シベリア鉄道の東の終着駅であるウラジオストク駅の大時計の針はモスクワ時間を示していた。

 ウラジオストクはかつて不凍港を目指して東進したロシア帝国が築いた町であり、街並みはヨーロッパ風だ。ロシア正教の教会の建物はサンクトペテルブルクを髣髴(ほうふつ)させる風情がある。ロシア語で「東方を征服せよ」という意味を持つこの都市は、旧ソ連時代から今日(こんにち)に至るまで一貫してロシア極東艦隊の戦略拠点であったが、その一方で、軍事上の機密のためか商業の発展は制約を受けてきた。

 バイカル湖以東の東シベリアから沿海州にかけての広大な地域は地下に原油、天然ガスなどのエネルギー資源や鉱物資源が埋蔵されており、ロシアにとって重要な資源の供給源である。

 しかし資源開発だけでは雇用に結びつかない。ロシア極東の人口は、この20年間で2割も減ってしまった。目立った産業が育たず、長大な国境線の向こう側の中国との人口格差は拡大する一方である。危機感を覚えたプーチン政権は極東開発を最重要課題の一つに掲げ、昨年ウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)を主催するにあたり、会場となったルースキー島の開発に取り組むとともに、1100メートルを超える世界最長の斜張橋ルースキー島連絡橋を建設した。

 私の今回のウラジオストク訪問は、ルースキー島内の極東連邦大学の広大な敷地にある会議場で開催された「ロシア極東投資会議」に出席するためである。会議の主催者はロシア沿海州政府。ミクルシェフスキー沿海州知事は投資誘致に並々ならぬ意欲を見せていた。会議の直前に、プーチン大統領の肝煎りで作られた極東開発省の初代大臣イシャーエフ氏(元ハバロフスク州知事)は更迭されており、ミクルシェフスキー知事は成果を示す必要があるからだ。会議には中国から黒龍江省の省長、陸昊氏が参加していた。

 陸昊氏は中国の「第6世代」のホープの一人として注目されている人物だ。黒龍江省はハバロフスク州、沿海州と国境を接するが、日本海に出るにはロシア領か朝鮮半島を通らなければならない。すなわち中国は日本海には面していないのだ。陸昊氏は鉄道、道路、港湾の整備の必要性を強調し、黒龍江省と極東ロシアのパートナーシップを訴えていた。

 APECを契機にウラジオストク空港は新ターミナルがオープンし利便性が向上した。ウラジオストクではロシア連邦政府よりカジノの開設が認められ、カジノを中心とした世界レベルの遊興娯楽施設の建設が視野に入る。著名なホテルチェーンも関心を示しているようだ。

 日本も環日本海経済圏のグランドデザイン作りで主導権を握るべき時期だ。日本海に出口を持たない中国と違い、空港、港湾、鉄道などの輸送インフラを「国際物流」という観点で見直せば、日本海側各都市は有利な立場にあることが分かる。環日本海経済圏を周辺国の国境を越えて「面として捉える」、大胆で柔軟な発想が求められている。

【プロフィル】前田匡史

 まえだ・ただし 昭和32年生まれ。東大法学部卒業後、57年日本輸出入銀行(現国際協力銀行)入行。ワシントン駐在や資源金融部長、国際経営企画部長などを経て平成24年から執行役員。米ジョンズ・ホプキンス大客員研究員、原子力損害賠償支援機構運営委員なども務める。著書に『いまこそ、「不屈の日本」を信じるとき』(WAC BUNKO)など。

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