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不動産好景気に沸くタイ西部 土地価格 5年間で14倍に

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

不動産好景気に沸くタイ西部 土地価格 5年間で14倍に

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 不毛な荒地の中を走る一本の街道沿いに突如現れた商業施設群。その不釣合いな佇まいには違和感を禁じえないが、週末ともなると遠方から多くのタイ人客が集まり、ごった返す。買い物にいそしむ人、土地取引の下見に来る人。ゴールドラッシュにも似た表情と言えるだろう。商業施設が建つタイ西部のカンチャナブリ県は、かつては製糖を中心とした農業県だった。ところが、今、始まったばかりの不動産好景気に沸いている。

 首都バンコクから西に200キロ。民主化の始まったミャンマーとの国境を目指す途上に、その商業施設群はある。百貨店ロビンソンを基幹店に、地場スーパー、タイ資本の日本食レストラン、書店など「ここに来れば何でもそろう」と子連れで買い物に訪れた自営業者は話す。周辺一帯は道路網が整備され、県内の自宅からは車で30分ほどで来られるようになった。

 商業施設がオープンしたのは今年2月。建設地とその周辺は数年前まで粗末な民家の点在する荒地に過ぎなかった。ところが、3年ほど前から突如、道路が新設・拡張され、土地の取引も活発となった。地元の不動産事情に詳しい在タイ資産運用日本人コンサルタントの佐々木扶美さんによると、5年前まで1ライ(タイの土地面積単位=1600平方メートル)当たり50万バーツ(約158万円=当時)に過ぎなかった荒地が2年後には2倍に。2012年末には7倍にまで高騰し、現在は700万バーツ(約2200万円)ほどで取り引きされているという。5年間で14倍になった計算だ。

 ◆「南部経済回廊構想」

 背景にあるのが、アンダマン海に面するミャンマー南部の都市ダウェイとバンコクを直結する国際流通網「南部経済回廊構想」だ。ダウェイに国際深港を建設し、バンコクとハイウェイで結べば、マラッカ海峡を経由しなくてもインド洋に物資を送り届けることができる。さらには、バンコク東方の貿易拠点レムチャバン港で積み替え、東アジア、さらには日本との航路を結ぶことも。ミャンマー最大のヤンゴン港は河川港で、水深も浅く、今後の経済成長に不安を残す。こうしたことからも、ダウェイに新港を造り、タイ中部と連なる国際物流網を整備しようという試みは日に日に現実味を増している。

 タイ国家経済社会開発委員会(NESDB)の試算によると、新港建設と周辺地区の整備などダウェイ開発に要する費用はミャンマー国内だけでも総額2487億バーツ。タイ国内で計画されている高速道路網の建設やカンチャナブリ県プーナムローン地区に予定されている新規工業団地と合わせると、総投資額は4000億から5000億バーツにも。大半をタイの建設業者らが請け負う見通しで、まさにタイ経済の将来をかけたビッグプロジェクトと呼ぶにもふさわしい。

 ◆東京でも説明会

 こうした事情を背景に、南部経済回廊が貫くカンチャナブリ県では不動産価格が高騰している。県庁舎には「南部経済回廊の早期完成を!」の垂れ幕。県内の学校では教員が10年後の経済発展を子供たちに教える姿もある。「大手飲料メーカーが数千ライ単位で土地を買い占めた」という未確認情報も土地価格を底上げする要因となっている。

 地価高騰の余波は意外なところにも出ている。「最近、日本からの資産運用の照会が増えるようになった」と話すのは、前出の在タイ資産運用日本人コンサルタントの佐々木さん。昨年末ごろからインターネットなどで情報を得たという個人投資家らが直接、問い合わせをしてくるようになったという。このため佐々木さんは今年に入ってから東京などでも説明会を開催するようにしたところ、盛況が続いているという。

 相続税がないタイでは伝統的に「土地を所有することが最も安定的な資産運用」という価値観が根強く残っている。そこに降って湧いたかのような「南部経済回廊構想」。タイの土地事情の行く末は果たしてどうなるのか。今はまだ、そのことを指摘する見解はほとんど聞かれない。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀晋一)

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