◆必需品に市場原理はおかしい
--原子力発電所の再稼働を巡る世論は賛否両論です。その一方で原発停止に伴う火力発電の燃料費の追加負担が年間4兆円近くに達し、日本の貿易赤字が膨らむ要因となっています
「マクロ経済的に見ると、輸入はGDP(国内総生産)のマイナス要因です。原発を止めていることによってGDPが4兆円近く減ったということの意味を考えていただきたい。すなわち、国民の所得がそれだけ海外に流出し、減っているということです。安倍政権はデフレ脱却を標榜(ひょうぼう)していますが、デフレの原因は国内の所得不足にあります。所得不足で国民がお金を使わないからデフレになっているのに、GDPの1%近い所得を外国にプレゼントしている状況は何としても止めないといけない。そのためには安全性が確認された原発を再稼働させる必要があります」
--しかし、原発再稼働に反対の意見もあります
「エネルギーは他の商品やサービスとは違って、日本国の安全保障にかかわる問題です。例えば、中東で紛争が起きて、日本向けの原油や天然ガス輸送の重要なシーラインであるホルムズ海峡が封鎖されれば、火力発電燃料の天然ガスは日本に運べなくなります。その際の代替案はなく、街中の信号機が止まってしまうような停電もあり得るわけです。そんな国で安全に安心して生活できますか、ビジネスも普通にできますかということなんです。欧州ではロシアからの天然ガスパイプラインを止められることが起きていますが、ロシアの立場は強い。なぜかというと、エネルギーは相手にとって必需品ですから。電気のような絶対的な必需品に市場原理なんていうのはおかしいし、どこかの国に頼る、何かに頼るという発想はバカげているということを理解しないとだめです。
反原発の人たちは、そこまで理解したうえで反対しているのか疑問です。単に放射能がいやだという感情的な主張だけのような気がします。その気持ちも分からなくもないのですが、それなら将来的に確実な脱原発の姿をまじめに考えて、具体的に示してほしいと思います。そのポイントは3つあります。1つ目は、実際に天然ガスの輸入がストップするような事態が発生したときの代替案をどうするか。2つ目は、原発を動かさなくても、今も使用済み核燃料は国内に1万7000トンあるわけで、これをどうするのか。3つ目がエネルギー安全保障です。原発がいやだから全部天然ガスかというと、それは安全保障上のリスクが大きい。安全保障の基本は、多様化、分散化です」
--政府は昨年12月にまとめたエネルギー基本計画案で、原発を「重要なベース電源」と位置づけました
「正しいと思います。ただ、国民の理解を深めるためには、政府は原発を『重要なベース電源』と位置づけた理由について、国民に対する説明を尽くしていく必要があります。例えば、原発がわが国のエネルギー安全保障上重要ということや、今原発なしで日本の電力需要がまかなわれているのはある意味では奇跡だという現実を、国民に丁寧に説明していくべきだと思います」
◆「発送電分離」は阻止すべき
--エネルギー政策にとって、再生可能エネルギーをいかに活用していくかも重要な問題です。日本の再生エネ政策をどう評価していますか
「最悪です。再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)ほどひどいレント・シーキングは見たことがありません。レント・シーキングとは、既存需要に対し政治的に他の人が割り込んで所得の一部を奪うことを指すのですが、ここまで見事にやられたケースは日本初でしょう。原発を動かしていないため、国内の電力需要を電力会社がまかなえなくなるような状況になっている問題を放置しておいて、高値の固定価格で長期間買い取るというのは、これほど市場原理を無視した話はありません。しかも、申請時に決めた固定価格が20年間保証されるため、今でも約2万件がまだ発電事業を始めていません。太陽光パネルのコストが下がるのを待ち、事業を始めた方が有利だからです。さらに、FITで電力供給が安定化するのならまだいいが、逆に不安定になっています。北海道電力では再生エネの受け入れが限界に達しており、送電線の能力を大きくする投資が必要になっています。その投資はどう考えてもFIT事業者が負担すべきと思うが、実際は国民負担になります。FITはすぐに停止すべきです」
--では、再生エネ普及促進にはどんな政策が有効ですか
「再生エネを代表する太陽光発電や風力発電の最大の弱点は、自然任せのため発電能力が不安定なことです。太陽光なら昼間に発電した電気をためて、必要に応じて供給できる大容量の蓄電設備があればこの問題をカバーできます。本当に再生エネを普及させたいのなら、大容量蓄電技術の開発に重点投資すべきでしょう。そこに政府が資金を投じて進めるべきなのに、なぜ発電だけに力を入れるのか疑問です」
--再生エネの開発・利用は欧州が先行しています。最近は見直しの動きが広がっているようですが、欧州の実態をどう見ていますか
「欧州では、市場原理とは無関係なFITと、市場原理バリバリの発送電分離を組み合わせたため、さまざまな矛盾が生じています。ドイツでは、発電が不安定な太陽光や風力のバックアップ電源の調達をどうするかが問題になっていて、通常の電力卸市場とは別に、バックアップを確保するための卸市場をつくろうとしています。屋上に屋根をかけるような話で、まさに末期的現象と思います。家庭の電気料金ではFITの負担が大きくなりすぎて、各国で買い取り価格など制度が見直されています。FITと発送電分離が両立しないのは当然で、一番良い解決法は元に戻すことだと思います」
--日本は逆に、電力小売り全面自由化と発送電分離を柱とする電力改革を進めようとしています。電力改革はどうあるべきとお考えですか
「日本で公共投資がたたかれ始めた1997年頃、土木・建設業界は反論しませんでした。そのうち嵐は過ぎ去るだろうとじっとしていたが、嵐はいつまでたっても去らず、業界はぼろぼろになってしまいました。その結果、わが国の安全保障の弱体化が起きました。例えば、震災が起きても、土建業者自体の数が激減してしまったため、助けてくれる人が誰もいない。北海道では除雪業者がいなくて、市民生活に支障を来たしているところもあります。
今、電力業界は縮こまっていますが、それではいけないと思います。政治力を発揮してでも、国民とコミュニケーションをとるべきで、エネルギー安全保障について堂々と説明すべきです。嵐はいずれ過ぎ去ると考えていると、日本の安全保障は弱体化し、最終的に誰が困るのかといえば、私たち国民が困るんです。発送電分離にしても、実行すればどうなるかは電力会社が一番分かっているはずで、問題点を説明し反論すべきです。小売り全面自由化はまだしも、発送電分離は絶対阻止しないと、これまで築き上げてきた世界に冠たる日本の電力サービスの質を劣化させるだけです」
--全面自由化は一応評価しているのですか
「いいえ、反対ですが、いろいろ騒がしい人も多いので、それくらいはいいかなと思っている程度です。なぜ反対かといいますと、電力自由化した欧米各国ではすべての国で電気料金が値上がりしているんです。信じがたいことですが、自由化の旗振り役である経産省の資料にそう出ており、経産省も認めています。自由化や民営化の最大の目的は価格を下げることにあるのではないのでしょうか。本来、電力サービスに自由化は合わないし、総括原価方式で良いと思います。利益が保証されていてズルイという人がいますが、そもそも公共インフラですから、適正利益が出て安定経営できるからこそ、日本の電力会社に対する投資が増え、年間停電時間が世界最低という素晴らしいサービス体制が築かれたわけです。これを自ら壊してしまうようなことはするべきではないと思います。政治家も不勉強で、この問題ではきちっと反論しなければいけないのに、『発送電分離反対』の声が出てこないことに私は恐怖すら感じています」(聞き手 神卓己)
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このシリーズは、隔週木曜日に掲載しています。次回は最終回で2月27日、科学ジャーナリストの東嶋和子氏です。
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【プロフィル】三橋貴明
みつはし・たかあき 1969年熊本県生まれ。東京都立大(現首都大学東京)経済卒。外資系IT企業、NEC、日本IBMなどを経て、2008年に中小企業診断士として独立。07年に発表した『本当はヤバイ!韓国経済』(彩図社)がベストセラーに。その後執筆活動とともに、経済評論家として活躍。自身のブログ『新世紀のビッグブラザーへ』は人気ブログランキングの「総合」「政治部門」とも1位。著書は『日本経済、復興と成長の戦略』(朝日新聞出版)、『日本は「国債破綻」しない!』(実業之日本社)、『国富新論<奪い合う経済>からの脱却』(扶桑社)など多数。