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【エネルギー政策を問う】初めて迎える「原発ゼロ」の夏

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【エネルギー政策を問う】初めて迎える「原発ゼロ」の夏

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一番早く審査が進む九州電力川内原発。左から1号機、2号機  ■電力需給が一段と逼迫 安定供給へ問われる政府の姿勢

 原子力発電所の再稼働が遅れている。政府の原子力規制委員会は、九州電力の川内原発(鹿児島県)を対象に安全性を確認する優先審査を進めているが、実際の再稼働は7月以降にずれ込みそうだ。それ以外の原発では再稼働の見通しはいまだに立っていない。このままでは東日本大震災後、電力需要がピークとなる夏を初めて「原発ゼロ」で迎え、電力供給が再び綱渡りを強いられるのは確実な情勢だ。電力不足が恒常化し、暮らしと産業を支える電力を安定的に供給できなければ、消費税増税に伴う反動減を乗り越えることが課題の日本経済にも打撃を与えかねない。安倍晋三政権の姿勢が問われている。

 ◆日本経済にも深刻な打撃

 政府のエネルギー政策の中長期的な指針となる「エネルギー基本計画」が11日に閣議決定された。原発については重要なベースロード電源と位置づけ、原子力規制委が安全性を確認した原発は再稼働させる方針を明記した。ベースロード電源とは発電コストが安く、昼夜問わずに動かす電源という意味だ。将来の電源別の構成を示すことは見送ったが、民主党政権で進められた「2030年代に原発稼働をゼロにする」とのエネルギー・環境戦略を明確に転換し、安定的な電力供給を確保するために欠かせない電源とした意義は大きいといえる。

 だが、このエネルギー基本計画がそのまま原発の再稼働につながるわけではない。原発の安全審査は独立性を高めた規制委が担当しており、この審査に合格することが前提となっている。東日本大震災に伴う東京電力の福島第1原発事故を受けて導入された新たな安全基準には、全電源喪失など過酷事故対策が盛り込まれた。原発の安全性を追求する取り組みは徹底されなければならないが、一方でその審査作業は科学的で透明性が確保される必要がある。

 ◆予想以上に長引く審査作業

 これまで電力業界では規制委に対し、10原発17基の審査を申請し、今年3月には九州電力の川内原発1、2号機が優先審査の対象にすることが決まった。地震や津波などへの対策が安全基準をほぼ満たしているとの判断からだ。ただ、審査に必要な書類の準備などに時間がかかっている。

 また、書類審査に合格しても原発の機器の検査などが控えているほか、再稼働に向けて周辺自治体による同意も取り付けなければならない。このため、一番早く審査が進んでいる川内原発でも実際の再稼働は、夏の節電が始まる7月1日には間に合わない可能性が高いと指摘されている。

 さらに問題なのは、川内原発に続いて再稼働する原発が見通せないことだ。四国電力の伊方3号機(愛媛県)と関西電力の大飯原発3、4号機(福井県)などが次の有力候補とみられていたが、断層の判断などをめぐって規制委から厳しい追加注文が相次ぎ、審査作業が予想以上に長引いているからだ。とくに昨年夏に運転していた大飯原発の再稼働が今年夏は絶望的であり、関西電力管内では電力需給が逼迫する事態が懸念されている。電力の安定供給に支障が生じれば、予想外の突発的な大規模停電が発生する恐れも否定できない。

 こうした規制委の審査に対しては、その独善ぶりを批判する声も根強い。委員個人の意見が委員会全体の判断に色濃く反映される傾向が強く、自民党チームからは「規制委は合議制による検討ができていない」などと組織運営の改善を求める意見書が出ているほどだ。

 このほか、規制委では原発の安全審査に関する最終的な結論を出す前に、立地自治体で公聴会を開催することを決めた。これは予定になかった手続きである。規制委はいたずらに審査を長引かせることなく、あくまで迅速で専門的な審査に徹しなければならない。少なくとも「原発の再稼働を止めている」との疑念を持たれるようなことがあれば、規制委の信頼性も揺らぎかねない。

 ◆発電コストの上昇、家計や企業を圧迫

 日本国内では現在、全国にある48基すべての原発が稼働を停止するという異常事態にある。大震災前には発電全体の3割を占めていた原発の運転が止まり、その代替電源として火力発電所のフル稼働が続いている。今では化石燃料を使う火力発電の比率は全体の9割に及び、石油危機時を上回って過去最高水準にある。これに伴って液化天然ガス(LNG)など化石燃料の輸入が急増し、経済産業省の試算によると原発停止に伴う追加燃料費は、円安も加わって年間で3.6兆円に達するという。これは1日あたり100億円の国富が産油国などに余分に流出している計算だ。これにより、昨年度の貿易赤字が過去最大となったことも忘れてはならない。

 発電コストの上昇は、電気料金の引き上げとなって家計や企業を直撃している。家庭用料金をみると、大震災前と比べて東京電力で4割、関西電力でも3割近く上昇している。中部電力も5月から料金を引き上げるが、これによって大震災前より2割超上がるという。しかも電力各社が認められた値上げは、一定の原発再稼働を前提にコストを計算したものだ。再稼働が遅れればさらなるコスト上昇を招くことになり、再値上げも現実味を帯びてくる。

 すでに北海道電力などが再値上げの可能性を表明している。安倍政権は消費税増税による景気の腰折れ阻止に全力をあげる構えだが、原発の早期再稼働を通じて電気料金の上昇を避けることにも取り組まなければならない。

 ■「何とか乗り切れる」という楽観論は禁物

 政府の電力需給検証小委員会では今年夏の電力対策の策定に入ったが、原発再稼働が見通せないために「原発ゼロ」を前提に需給動向をまとめる方針だ。原発を持たない沖縄電力を除く電力9社の供給予備率は、4.6%と最低限必要とされる3%を上回るとしている。東日本地域の予備率は6.1%とまだ多少の余裕はあるが、中・西日本地域では3.4%とかなりの逼迫が予想されている。とくに原発比率が高かった関西電力と九州電力では、東京電力からの電力融通を前提にぎりぎりの3%としており、これがなかった場合には1%台から2%程度にまで落ち込むという。電力需給はまったく予断を許さない状況にある。

 こうした綱渡りの電力供給の中では懸念材料も多い。その一つが設備故障だ。全国に火力発電所は約300あるが、このうち運転開始から40年を超えた設備が全体の2割に達している。原発を代替するために休止中だった老朽火力設備もかき集めて稼働させているほか、特例で定期検査を先送りするなどで何とかつじつま合わせしているのが現状だ。だが、大震災から3年以上が過ぎ、そうした取り組みも限界を迎えつつある。昨年7、8月には、故障などで発生した発電所の計画外停止が前年同期に比べて平均で2割も増えた。無理な稼働が続く全国の老朽火力が次々に悲鳴を上げているのが現状だ。

 火力発電所が故障などで稼働を停止した場合、深刻な電力不足に陥る恐れがある。昨年8月には関西電力の舞鶴火力発電所1号機(京都府)が不具合で稼働を停止し、南港火力発電所3号機(大阪市)もトラブルで出力抑制を余儀なくされた。35度以上の厳しい暑さも加わり、供給力に対する最大需要の割合を示す電力使用率は連日95%を超えた。一時は96%まで上昇し、他社からの緊急融通で何とかしのいだ経緯がある。「日本は原発ゼロでも何とか乗り切れる」などとする楽観論は禁物である。

 こうした危機的な状況は、日本のエネルギー安全保障の観点からみても危うい。日本のエネルギー自給率は、先進国の中で最も低い5%に過ぎない。原発停止で火力発電に対する依存度が9割に達する中でLNGの約3割、原油の9割は中東から輸入している。いまだに中東情勢は不安定であり、ホルムズ海峡が機雷で封鎖されるような事態が起きれば、中東依存を強める日本の被害は甚大だ。

 米国はバーレーンに第5艦隊の本拠地を置き、ペルシャ湾ににらみをきかせている。だが、国際エネルギー機関(IEA)によると、その米国は「シェール革命」で2035年には自国のエネルギー需要のすべてを国内資源で賄うことになると予測している。そうなれば米国がホルムズ海峡を守ってくれる保証はなくなる。

 エネルギー安全保障は経済に直結する。資源小国の日本にとって、原発は有効なエネルギー資源だ。電力の安定供給は政府の責務であり、そのためにも原発の活用に向けて国民と正面から向き合うことが求められている。

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