SankeiBiz for mobile

タイ「経済回廊構想」実現遅れ インフラ整備法案に違憲判決

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

タイ「経済回廊構想」実現遅れ インフラ整備法案に違憲判決

更新

物流交通網の整備計画によりピサヌローク県ではここ数年、大型の商業モールなどが建設されてきた(セントラルプラザ提供)  半年にわたるタイの政治混乱は、いまなお終局がみえずに混沌(こんとん)としている。こうした中、タイの憲法裁判所は、インラック政権が発議し、国会の上下両院で可決された総額約2兆バーツ(約6兆3200億円)に上る「交通輸送インフラ整備事業資金借入法案」に対する違憲判決を3月12日に下した。これにより、タイのインフラ整備事業は大幅に遅れることが確実となり、輸送計画の見直しや地価下落など物流業界と不動産業界に早くも影響が出始めている。

 ◆2年で地価3倍も

 バンコクから北に約400キロ。北部チェンマイやチェンライの玄関口にあたるピサヌローク県では、ここ数年にわたり地価が上昇し、都市部の土地所有者の間でちょっとした土地ブームに沸いていた。地元の不動産業者によると、クウェーノーイ川とナーン川が接する中南部域の市街地では、2年余りの間に地価が2~3倍も上昇した。売却した土地が1週間後には転売されることも珍しくない。

 県庁所在地に当たるムアンピサヌローク郡に住むヨーンさんの周辺もそうしたエリアだ。以前は田舎の一本道に過ぎなかった沿線で、オフィスビルや商業モールが建設されるようになった。「街が騒がしくなった。この5、6年ですっかり変わってしまった」とヨーンさんは複雑な様子だ。

 インドシナ半島の物流をめぐっては、かねてより国際流通網(経済回廊)の整備計画が話題となっていた。南方のマラッカ海峡を経由しなくとも太平洋側とインド洋側を結ぶことができるルートの整備が、国際交易の大きな弾みになると期待されてきた。そのうちの一つ、ベトナム中部の都市ダナンからラオス・第2メコン友好橋を通り、ピサヌロークを経由して改革・開放の進むミャンマーの港湾都市モーラミャインまで結ぶのが東西経済回廊だ。物流整備計画にはこのほか、南部経済回廊や南北経済回廊などがある。

 これら経済回廊構想を現実的に促進させようとしたのが、インラック政権の交通輸送インフラ整備事業だった。タイ国鉄全線での複線化に約3900億バーツ、高速道路整備事業に約2500億バーツ。さらに日本の新幹線を想定した高速鉄道整備事業に約7900億バーツが投じられる予定だった。ピサヌロークは、これら中心事業が軒並み重なる主要エリアの一つで、地価上昇には十分な理由があった。

 ◆1カ月で20%下落

 インフラ整備計画は、好調といわれながらも昨年後半あたりから経済に陰りが見え始めたタイの国内総生産(GDP)を毎年1%底上げし、輸送コストも大幅に引き下げる効果があるものとみられていた。観光客の増加により、新たな雇用が50万人生まれるとの試算もあった。

 ところが、タイの政局がこれに「待った」をかけた。十数年に及ぶ「タクシン派対反タクシン派」の対立の影響だ。野党民主党も国土開発やインフラ整備の方向性では一致しても、政権案をそのまま丸のみすることはできない。インラック政権がこれら巨額の事業予算を通常予算外の国際融資や国債の発行で賄おうとしたことを問題視したからだ。

 提訴先の憲法裁は判事の選出の仕組みから反タクシン派の「牙城」として知られる。インラック首相の罷免か失職を狙いたい野党にとって、インフラ計画も一つの“政争の具”に過ぎなかった。

 タイでは今、産業界を中心に失望の声が広がっている。タイ工業連盟のパユンサック会長はインフラ整備事業により、現在はGDP比で15%に相当する物流コストが2ポイント程度引き下げられるものと期待していた。ところが、まさかの違憲判決。計画が頓挫したことで、同会長は「物流コスト低減に伴う各種プロジェクトも大きく遅れるだろう」とすっかり渋い顔だ。インフラ政策をつかさどる運輸・交通政策計画事務局の広報官も「通常予算の枠内拠出と民間投資を期待するしかないだろう」と計画の見直しを示唆している。

 事業のストップは民間経済にも影響を与え始めている。ピサヌロークでの商業地では、「判決から1カ月で15~20%程度、地価が下がった」と現地の不動産業者。他の経済回廊網に該当するエリアでも地価が下落したり、土地を売りに出したりするケースが目立つようになったという。半年に及ぶタイの政治混乱は、憲法裁の違憲判決も相まって足元の経済にも確実に影を落とし始めている。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀晋一)

ランキング