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【日本の針路 大塚耕平のスピークアウト】自衛権発動の原則論確立が必要

ニュースカテゴリ:政策・市況の国内

【日本の針路 大塚耕平のスピークアウト】自衛権発動の原則論確立が必要

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集団的自衛権の行使容認の閣議決定後、記者会見する安倍首相のニュースを伝える大型モニター=1日、大阪市  7月1日、政府は臨時閣議で「集団的自衛権」に関する憲法解釈変更を決定した。賛否両論ある中、改めて論点を整理しておきたい。

 ◆プラス・マイナス

 「個別的自衛権」は人間の正当防衛や生存権に擬せられる「自然権」。憲法に書いてあろうがなかろうが「保有し、行使できる」のは当然のことだ。一方、「集団的自衛権」は1945年の国連憲章51条において、当時の国際情勢に対応して新たに考案された人為的、後天的な権利。「個別的自衛権」は「自然権」であり、「集団的自衛権」は「自然権」ではない。賛否どちらの立場であっても、まず共有すべきはこの点である。

 日本は、日本国憲法発布(1947年)、独立回復(1952年<サンフランシスコ講和条約発効>)以来、「集団的自衛権」は憲法上の制約から「保有すれども、行使できず」という立場を一貫して堅守してきた。

 国家はいかなる事態に直面しても国民の生命と財産を守らなくてはならない。国家の3要素(主権、国民、領土)を守れなければ、国家の体をなさない。そこで、歴代政権は「個別的自衛権」の概念や行使要件を進化させることで、現実の変化に対応してきた。

 顕著な事例が佐藤栄作首相(昭和43年)と中曽根康弘首相(同58年)による「個別的自衛権」の対応可能範囲拡大である(詳細は昨年11月14日付の本コラム参照)。しかし政府は、今回の閣議決定で「集団的自衛権」を「保有し、行使できる」という立場に変更した。

 「個別的自衛権」を進化させる路線を継承せず、「集団的自衛権」を行使可能とすることには、得るもの(プラス)もあれば、失うもの(マイナス)もある。得るものは「集団的自衛権」を行使可能とすることによる「抑止力」、失うものは「集団的自衛権」を行使できないことによる「抑止力」。どちらも「抑止力」である。

 日本は「集団的自衛権」を行使できないので、他国は日本を標的としないという「抑止力」。標的とされるリスクが低い「安心感」と言ってもよい。賛否それぞれの立場から、このプラス・マイナスの比較考量は百家争鳴であろう。しかし、重要なマイナスがもうひとつある。それは、閣議決定による憲法解釈変更という手法を選択したことである。

 この点に関する賛否両論の賛成派は圧倒的に不利である。過去の政府見解との整合性、立憲主義、民主主義との関係。いずれにおいても正当性は脆弱(ぜいじゃく)であり、欧米メディアもこの点に関して厳しい警鐘を鳴らしている。

 ◆自衛隊法76条・78条

 今回の論争は個別事例を材料に行われた。しかし、安全保障問題を個別事例で検討することの是非にも留意しなくてはならない。さまざまな事例を検討しても、現実に起こり得る全ての事態は網羅できない。実際に危険に直面する自衛隊員からすれば、困惑するばかりだ。

 あらゆる事態に対応するための原則論を定めておくこと、究極的事態(想定できない事態)へも対応可能な論理を準備しておくことこそが、国家として、そして現実の危険に直面する自衛隊員にとっても重要なことである。

 そうした観点から、防衛出動を定める自衛隊法76条、治安出動を定める同78条が鍵となる。76条は「我が国を防衛するために必要があると認める場合」に防衛出動が可能であることを定めている。あらゆる事態に対応可能な論理を考えるうえで重要なのは、「我が国」の定義である。国民の安全を守るのは国の当然の責務。国民が他国の武力攻撃の影響で危険にさらされているときに、現行法では対応できないと考える道理はない。

 国家の3要素は「国民、領土、主権」。万国共通の理解である。したがって、同条の「我が国」を「国民、領土、主権」と解すれば、邦人が乗船している輸送船が武力攻撃にさらされた場合、防衛出動は可能と考える原則論を定めておくことが論理的に可能だ。

 また、日本の安全保障は日米安全保障条約によって担保されている。賛否はあるにせよ、それが現実であり、事実だ。

 安全保障は主権を守る手段。日本の領域内または日本周辺で米軍が危機にさらされることは、ひいては日本の安全保障、つまり主権が危機にさらされることにつながる危険性を内包している。

 日本の領域(領土・領海・領空)内は当然のこととして、領域外でも日本周辺であれば、この論理を援用可能。あとは、どこまでが「周辺」かという「定義」の問題だ。「国民」の生命が危機にさらされるならば、たとえ遠隔地であっても、関係国了解の下で「国民」を保護することは国家の責務であり、「周辺」の「定義」も弾力的である。

 以上のように、同条の定める「我が国」を「国民、領土、主権」と解することによって、普遍的にさまざまな事態に対応できる。一方、78条は「間接侵略その他の緊急事態」に対する治安出動に関する規定である。「間接侵略」の定義は昭和48年の防衛庁長官答弁を継承している。いわく「外国の教唆又は干渉によって引き起こされた大規模な内乱又は騒乱」。

 しかし、この定義は昭和40年代の社会情勢、国際環境に対応しており、もはや陳腐化(時代錯誤)している。当時は東西冷戦下、東側諸国によるスパイ活動や破壊活動が懸念されていた時代。今や東西冷戦が終結した一方、中国の台頭、ロシアの復活などから、新たな環境に直面している。

 偽装漁民による離島不法占拠は一般的感覚で言えば明白な「間接侵略」。「間接侵略」の定義を変えることこそ必要だ。憲法解釈を時々の政権が裁量的に行うべきではない一方、現実の環境変化に対応して法律解釈を変更することは理解できる。

 さらに、「その他の緊急事態」に至っては定義なし。「その他の緊急事態」を明確に定義するか、弾力的に運営することで相当の事態に対処可能だ。

 自衛隊法76条・78条を現実的に運用して「個別的自衛権」を駆使する手法を選択せず、立憲主義、民主主義に反する閣議決定による憲法解釈変更という手法を用い、「集団的自衛権」を行使可能とした判断の適否は、後世の歴史が証明することになる。

 ◆密接な関係にある国

 個別法制の検討を進める一方で、将来の禍根を極小化するため、さらに深く論争すべき論点は少なくない。最たるものが集団的自衛権の定義である。

 現在の政府見解は「自国と密接な関係にある国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利として解されている」としている。

 問題は「密接な関係にある国」の定義だ。3月20日の予算委員会で外相に「定義は何か」「定義をオーソライズ(公式に確定)するのは誰か」と質問したところ、いずれにも答弁できず立ち往生。横で聞いていた首相も上の空。委員会終了後、首相・外相に「重要な論点なのでぜひ回答願いたい」と要請したところ、即日、国家安全保障局と外務省が来室。官房長官答弁書(想定問答)を資料として提示してくれた。

 いわく「『自国と密接な関係にある国』については、一般に、外部からの武力攻撃に対し共通の危険として対処しようとする共通の関心があることから集団的自衛権の行使について要請又は同意を行う国を指すものと考えられ、条約関係にあることは必ずしも必要ないと考えられている」。

 読者はどう受け止めるだろうか。筆者は「密接な関係にある国」との間には、日米安保条約のような条約関係が当然必要と考えるが、現在の政府見解はそうではない。この定義では、米国以外の国に対しても「集団的自衛権」を行使して支援する可能性があることを意味する。

 外務省から「『条約関係にあることは必ずしも必要ない』との解釈はニカラグア事件の国際司法裁判所判決に基づく」との説明があったので、「その根拠も示してほしい」と要請。外務省が提出してきた根拠は書籍(「国際法」中谷和弘・植木俊哉著、有斐閣アルマ)の該当部分のコピー。しかし、該当部分を読んでも同判決からの引用と確信できない表現だったので「判決原文に当たって確認してほしい」と再要請。

 すると、担当課長から送られてきたファクスには「確認したところ、同判決にはそのような明示的な記述があるわけではなく、当該記述は同著の著者の解説であることが判明致しましたので訂正させていただきます。ミスリードした説明となってしまい、申し訳ございません」(原文ママ)と記されていた。

 要するに「条約関係にあることは必ずしも必要ない」ことの根拠はないということだ。その内容が政府見解とされていることは問題だ。外相に「定義を誰がオーソライズ(公式に確定)するのか」と聞いた趣旨は、国際的にコンセンサスが成立していないことについては「国が自らの意思で責任をもって判断しなくてはならない」ということだ。外相は、外務省職員が文献に当たって検討している実態を直視し、大いに反省しなければならない。

 筆者としては、密接な関係にあり、支援するかもしれない対象国は、条約関係などによって明確にしておくことが必要と考える。今後も安全保障政策を巡る現実的かつ論理的な議論を続けなくてはならない。

                   ◇

【プロフィル】大塚耕平

 おおつか・こうへい 1959年生まれ、名古屋市出身。早稲田大学政経学部卒、同大学院博士課程修了(学術博士、専門はマクロ経済学)。日本銀行を経て2001年から参議院議員。内閣府副大臣、厚生労働副大臣を歴任。早稲田大学と中央大学大学院の客員教授。著書に「公共政策としてのマクロ経済政策」など。

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