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【マンハッタンの風景】米景気回復、供給減下支え
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■「もはや金融危機後でない」実感なし
米西海岸カリフォルニア州南部はサンディエゴ市郊外にあるクロスストーン・ドライブ。公立学校を抱える同地区の固定資産税は他の地区に比べて3000ドル(約33万円)ほど高いのだが、最近は不動産購入の引き合いが強い。
近郊に住む運送会社経営のマーク・フレックスさんによると、「地区の入居者が増えており、住宅は需給が逼迫(ひっぱく)している。来年以降に公立中学校を設立する方向で地区は動いている」という。
カリフォルニア州は米国景気のリトマス試験紙である。家族がマイホームを購入し、その含み益が消費動向を左右する。最近、クロスストーン・ドライブそばで開かれたファイナンシャル・アドバイザー(FA)の集まりでも不動産市場の回復が話題になっていた。
◆不動産価格の上昇
それもそのはず。サンディエゴの場合、7月の販売住宅価格(中間値)は44万5000ドルと昨年から6.6%の上昇。2桁上昇が鈍ってきたとはいえ、金融危機前とほぼ同じ水準にまで戻している。
西海岸だけでなく、東海岸の大都市でも不動産価格が上昇している。このほどニューヨークの地元雑誌は上昇を続ける市内アパート相場の特集を組んだ。
S&Pケース・シラー住宅価格指数、失業率、小売売上高、製造業購買担当者景気指数など主要な経済指標が金融危機前の水準かその近辺まで回復している。ウォール街では「もはや金融危機後ではない」というせりふがはやるぐらいだ。
経済指標の回復は株価には追い風。8~9月は米国の代表的な株価指数であるS&P500種が初めてとなる2000の大台を突破している。
先週半ば、英バークレイズのアナリスト部門が記者会見を開き、米国株のアンダーウエート(比重引き下げ)を発表した。欧州株や日本株の相対的な投資魅力が増したこともあるが、「バリュエーションが割高になった」というのが理由だ。
確かに、企業業績が回復したといっても、1株利益の増加は自社株買いやリストラによるコスト削減が中心で、売り上げ増によるものではない。株価予想収益率の上昇は米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ、各国の中銀による金融緩和のおかげである。
◆資金流入目立たず
金融危機で痛手を受けた個人が投資する株式の投資信託などへの資金流入は目立っていない。家計の多くは相変わらず現金を抱えたままである。
失業率の下落は人口動態の高齢化と求職者の減少が大きな要因。不動産価格の上昇は差し押さえ物件など、売り物の減少が利いている。
緑色の生地に白抜き文字で「WHAT RECOVERY?(回復って、何のこと?)」。最近、政府要人が集まるタウンミーティングには、こんなTシャツを着た活動家が集結している。長期失業者からなる活動家グループで、金融緩和の継続を政府に求めているのだ。
結局のところ、不動産相場から株式相場まで、需要増というよりも、供給減という需給要因が金融危機後の市況回復を支えてきた。「実感なき景気回復」といわれるゆえんである。(産経新聞ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇)