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【高論卓説】景観破壊は訪日観光客の失望招く 千葉利宏

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【高論卓説】景観破壊は訪日観光客の失望招く 千葉利宏

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 新年を迎えると日本人の多くが神社や寺院に参拝する。毎年300万人以上が初詣に訪れる明治神宮や成田山新勝寺の混雑ぶりをテレビで見る限りは感じないが、地方の実家で初詣すると地元の神社・寺院が地域コミュニティーで重要な役割を果たしていると実感する。

 NHKの紅白歌合戦が終わる頃に着込んで地元の氏神様を祭る神社まで歩いてお参りに行くと、境内でたき火がたかれ、地域の人たちがぞろぞろと集まってくる。参拝後に当番の氏子に挨拶してお神酒をいただき、御札となぜか“みそぱん”が配られ、たき火近くで地域の人たちと新年の挨拶を交わす。そうした交流が地域の人々のつながりを深めている。

 昨年10月に東京・日本橋室町の超高層ビルの谷間で福徳神社の新しい御社が完成した。三井不動産が昔から日本橋に残る良質なコミュニティーに新たな魅力を加えようと、地域の精神的より所である福徳神社を再建して賃貸した。

 さらに隣接する敷地も鎮守の森として整備すると決め、「地元町内会の人たちの要望を聞きながらデザインを検討している」(三井不動産日本橋街づくり推進部・新原昇平部長)という。地域コミュニティーの形成には、人々が自由に集まれるオープンスペースも重要な役割を果たしている。日本橋地区の来訪者にも人気を得るのは間違いないだろう。

 神社・寺院は、外国人旅行者の観光スポットとしても人気が高い。日本にある14の世界文化遺産のうち、神社やお寺に関連するものが京都、奈良、日光など7つ。昨年、京都での外国人宿泊客数が初めて年間100万人の大台を突破して話題となったが、国際都市を目指す東京でも人気スポットとして真っ先に挙がるのは浅草寺だ。

 台東区の推計では、浅草寺や上野公園などがある同区を訪れる外国人旅行者は年間400万人を超える。東京都の外国人旅行者行動特性調査でも、都内で訪れる場所は新宿・大久保、銀座に次いで浅草は3位。外国人旅行者の行動も日本食、ショッピング、街歩きに次いで神社・寺など歴史的・伝統的景観の観光が人気だ。

 昨年、テレビや新聞で大きく取り上げられた忠臣蔵で有名な泉岳寺に隣接する8階建てマンション建設問題だが、年末に現場を訪れるとついに基礎工事が始まっていた。完成すれば、歴史的な景観を破壊するだけでなく、観光スポットとしての価値を損い、地域コミュニティーにも大きな傷跡を残すことになるだろう。不動産事業者としても、このまま事業を進めるのはリスクが高いことは分かっているはずだ。

 日本では不人気だったが、2013年に赤穂浪士を題材にしたハリウッド映画「47RONIN」が公開されて、泉岳寺を訪れる外国人旅行者も増えているという。正月のNHK番組で紹介していたイタリア大使館にも、かつての大名庭園の一角に赤穂浪士の石碑が建てられ、赤穂浪士はイタリアでも有名だと大使が話していた。

 地下鉄の駅名にもなっている由緒ある寺院と地域コミュニティーを救うホワイトナイトが現れないものか。

 泉岳寺の近くでは2020年の東京オリンピックに向けて大規模再開発事業が動き出す。地元の協力を得て魅力あるまちづくりを行おうと考えている事業者がいるなら、名乗りを上げても損はないと思うのだが…。

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【プロフィル】千葉利宏

 ちば・としひろ ジャーナリスト 東京理科大学建築学科卒。日本工業新聞(現フジサンケイビジネスアイ)で半導体・IT、金融、自動車、建設・住宅・不動産を担当し、2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議幹事。著書は「家を動かせ!」「中古住宅を宝の山に変える」(共著:日経BP社)、「実家のたたみ方」(翔泳社)ほか。56歳。北海道出身。

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