先週、全国農業協同組合中央会(JA全中)が政府・自民党の農協改革案受け入れを表明し、農協改革がいよいよ佳境に入ったとみられている。しかし実際は佳境でも何でもない。ほんの第一歩でありゴールははるかに遠い。
この改革の最も重要なポイントは、誰のため、何のための改革なのかを明確にすることだ。農業者の健全な発展を促し、(1)食料安全保障(2)食の安全、安心と国民の健康(3)地方経済の活性化-をもたらすものでなければならない。自民党や農協の、権力闘争でもなく、また選挙対策であってもならない。農業業界のみならず、国民全体のための改革である。
農協グループは、大きく3段階で形成されている。各地の単一農協(単協)、都道府県レベルおよび全国レベルである。今回の改革案では、全国レベルのJA全中と全農を、新体制に移行し、単協の自由な経済活動を促進するとしている。JA全中の、単協に対する監査・指導権の廃止は、いまだかつて手出しできなかった岩盤に切り込んで、自由な経済活動を促進しようということで、一定の評価はできる。
◆必死の巻き返しも
しかしながら、それだけで農業を成長産業に転換することはできない。自民党内部からも、監査・指導権を廃止することが、なぜ農家所得向上や農業の発展につながるのか理解できないという声が多い。二の矢、三の矢という、総合的な農業活性化策の戦略が明示されていないからだ。
アベノミクス三本の矢が、五月雨的に発表され、効果は不透明で、いま大きな曲がり角を迎えているが、農業改革においても同じ轍(てつ)を踏んではいけない。まずは、農業全体の長期的な戦略戦術を明確にした上で、今回の第一歩をつなげなければいけない。
農協グループの新体制移行に3年の猶予が与えられるようだが、その間に農協サイドも必死で巻き返しを図ってくるに違いない。経済事業(農業関連業務)と金融事業の取り扱いの峻別(しゅんべつ)もなお不明確だ。ちなみに農協グループはざっと経済事業で2000億円赤字、それを貯金や共済等金融事業の黒字3000億円で補っている。
◆進む二極化
農協グループ内部での出世は、稼ぎ頭の金融事業担当者に集中している。農協エリートの金融担当者は、農業関連業務知識に乏しいケースが多い。
かつてはエース級であった、農業関連業務の営農指導員は、急速に存在感が薄れている。自由競争は、意欲と能力のある単協には成長チャンスといえる。しかしながら、全ての農協にそのような意欲と能力があるわけではない。つまり、農協や農家にも成長組と衰退組という二極化が進み、産業としての農業の発展にはつながらない。農業は、単なる市場原理に委ねるべきでないことは、世界で証明されている。
日本を含む世界は、さまざまな分野で急速な二極化が進んでいる。国内農業までもが二極化してしまっては、食料安全保障をはじめとした、国家基盤としての農業は成立しなくなる。
すなわち、一部の大規模化や高度化に成功した農業関係者の利益にはなっても、国民の利益を最大化することとは逆行する。単協の現場では、組織防衛のために合併が進み、組織が肥大化し、末端に神経が通わなくなってきており、より農業に対する機能が弱体化している。どの産業も、現場主義から遠ざかっては、発展などあり得ない。
派手で難しい改革論よりも、今すぐできる方策も多数ある。例えば独占禁止法の運用強化は、喫緊の課題だ。青果物流通、農業資材流通、あるいは金融事業などは、事実上の農協独占・寡占の弊害が生じている。
繰り返すが、今回の改革案は、ほんの第一歩にすぎず、それ以上でも以下でもない。大事なことは、農協改革ではなく、農業改革である。国民目線で国益を考えた、地に足のついた、総合的かつ長期的な改革を期待したい。
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【プロフィル】鈴木誠
すずき・まこと 慶大商卒、1988年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。ベンチャー投融資担当などを経て98年退社、2001年日本ブランド農業事業協同組合事務局長、03年3月ナチュラルアート設立。農業経営・地域経済活性化・店舗運営・食育プロデューサー。49歳。青森県出身。