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コーヒー文化香るバンダアチェ インドネシア北西部、観光の目玉に
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大きな茶こしを振りかざして、約1メートルの高さからコーヒーを落下させる伝統的なコーヒーのいれ方。店によってはコーヒー職人の技を楽しみながらコーヒーを飲むこともできる=インドネシア・アチェ州バンダアチェ、コーヒー屋台「ブルリアン」(横山裕一撮影) トラジャやマンデリン、バリなどコーヒーの産地として有名なインドネシア。日本ではあまり知られていないが、2004年に津波被害を受けた北西部アチェ州もインドネシア屈指のコーヒー名産地だ。アチェの人々はコーヒーを飲む習慣が生活の一部に深く浸透し、州都バンダアチェは「100万軒のコーヒー屋台がある」といわれるほど、繁華街や村のいたる所にカフェが乱立し、連日、大勢の客でにぎわっている。
◆朝から晩まで盛況
アチェコーヒーは主に中部アチェのガヨ地方などで栽培され、すっきりとした苦みのあるストロング系の味が人気で、ジャカルタでも販売されている。しかし現地アチェでは、茶こしを使った独特の伝統的ないれ方でコーヒーのうまさをさらに引き立てるのが特徴だ。
バンダアチェ中心部に位置し、インドネシアでいちばん美しいモスク(イスラム教の礼拝堂)といわれるバイトゥルラフマン大寺院。この裏にあるコーヒー屋台「ブルリアン」は、朝から仕事前の客で盛況だ。
モスクの棟の脇から朝日が店内に射し込む中、店員が直径約20センチの大きな茶こしにコーヒーの粉と湯を入れ、おもむろに頭の上の高さまで持ち上げる。茶こしの布からコーヒーが糸を引くようにガラス製コーヒーカップに注がれる。店員は「コーヒーがカップに落下して、泡立つことで香りが増す」と説明する。コーヒーは砂糖を入れたり、ミルクを入れたりするほか、アヒルの卵を混ぜた伝統的な飲み方もある。
市街地を中心にカフェが増えたのはここ10年。現地紙コンパスによると、約30年にわたった独立運動による紛争が04年の津波被害をきっかけに翌年終結し、夜も安心して出歩けるようになったのが要因という。さらに、アチェのコーヒーをより広めようと11年からコーヒーフェスティバルが開かれるようにもなった。伝統的なコーヒー屋台やカフェだけでなく、生産者や製造業者も出店してアチェのコーヒーを披露し、地域の活性化と観光客の誘致を狙う。主催者は「コーヒーを飲む習慣はアチェの人々の文化だ」とまで言い切る。
◆人々の平和を象徴
アチェのカフェは朝から晩まで客足が途絶えない。夜は夕食後の憩いの場、昼間は商談をはじめ政治家や文化人など仕事の場となる。「アチェの人々はカフェで問題を解決する」といわれるほどだ。
大学近くのカフェチェーン店「ザキル」は、午後から夜にかけて学生たちで満員となる。約200席の店内では、学生たちが無料インターネット回線を利用して勉強に趣味に持参のパソコンをのぞき込み、さながら教室のようになる。コーヒーはどこのカフェでも1杯約20~60円。手軽な値段で長時間楽しめるのも人気の理由だ。
乱立するカフェの中で根強い人気を誇るのが、創業40年余りの「ソロン」。「バンダアチェに来てソロンのコーヒーを飲まずしてどうする」といわれるほどの有名店。現在、支店を含めて6店舗を構える。コーヒー豆を煎るときにトウモロコシや砂糖、バターなどを加えて香りを整えることによる独自の味が人気を呼んでいる。常連で食堂経営のアファンさんは「毎日、午後の空き時間や自分の店を閉めた後に必ずコーヒーを飲みに来る」と話す。
コーヒーを飲みながらおしゃべりを楽しみ、夜が更けていくカフェの光景は、災害や紛争を乗り越えたバンダアチェの人々の平和を象徴しているかのようだ。(在インドネシア・フリーライター 横山裕一)