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【電力考】原発下の活断層、不可解な評価工程 塚原晶大・電気新聞記者
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日本原電敦賀原発の破砕帯をめぐり、調査団の評価書案に異論が相次いだプレビュー会合=2014年12月、東京都港区 原子力規制委員会の「組織理念」には良いことが書いてある。「国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める」。ところが、原子力発電所敷地内の破砕帯を調べる有識者調査団の運営を見る限り、理念が守られているか疑問だ。特に、日本原子力発電の敦賀原発(福井県敦賀市)をめぐる対応には不可解さが凝縮されている。
調査団は、旧原子力安全・保安院が破砕帯の追加調査を指示した6原発ごとに設けられた。東北電力東通(青森県東通村)、北陸電力志賀(石川県志賀町)、関西電力美浜(福井県美浜町)、同大飯(同おおい町)、原電敦賀、日本原子力研究開発機構「もんじゅ」(同敦賀市)だ。規制委の委員と4つの学会から推薦を受けた有識者の計5人で編成される。
◆規制委の認識とずれ
調査団が真っ先に結論を下したのは原電敦賀。2013年5月、2号機直下の「D-1破砕帯」を活断層と認定した。正確には、敷地内のトレンチ(試掘溝)で見つかった「K断層」を「活断層の可能性は否定できない」とし、それが「D-1破砕帯」と同じものだと推定した「クロ判決」だ。
規制委はこれを受けて原電に対し、断層が動いて建屋が傾いた場合でもプールに保管されている使用済み燃料の安全性は保たれるかを調べるよう、原子炉等規制法(炉規法)に基づく報告徴収命令を出した。命令に従わないと罰則が付く厳しい処置である。
ここが不可解な点の一つ。炉規法67条では、報告徴収命令について次のように書かれている。「この法律の施行に必要な限度において、原子力事業者に対し、報告させることができる」。調査団が下した結論は行政処分ではない。にもかかわらず報告徴収命令を発したことは「法律の施行に必要な限度」を超えていないか。調査団の評価と法的な審査は「別物」という規制委の認識ともずれている。調査団の位置付けを方針転換させたとしか考えられない。規制委の公式見解は「当初から(位置付けに)変更はない」というものだが、マスコミの多くは当初、そのように受け止めていなかった。
調査団が評価書案をまとめると、他の原発を調べた専門家からなる「ピアレビュー会合」が開かれる。評価書案が科学的に間違っていないか、論理構成に矛盾がないかを第三者の視点で検証するプロセスだ。ここでも多数の疑問がある。
規制委が13年2月に了承した「敷地内破砕帯の評価書案に関するピアレビュー会合について」と題した文書には「ピアレビューの結果については必要に応じ評価書案に反映する」とある。ところがその後、原子力規制庁は「ピアレビューの具体的実施方法」という文書を出した。ピアレビュー会合に出る専門家の役割に「当該破砕帯を再評価するのではなく」という制約をかけたが、規制庁文書は規制委に諮られていないし、了承されてもいない。
◆調査団の人選次第
昨年12月に開催された敦賀破砕帯に関するピアレビュー会合は、評価書案の本質的な矛盾を突いた指摘が相次いだ。「D-1破砕帯とK断層は別物ではないか」(岡田篤正・京大名誉教授=日本活断層学会会長)といった批判だ。
しかし、規制庁文書の「当該破砕帯を再評価するものではなく」に縛られたのか。座長が「あまり立ち入ってしまうと最初からやり直すかどうかという話になる。それは難しい」と制限を課す場面が目立った。まるで「聞き置く」とでも言わんばかりの態度だ。
評価書案への相次ぐ異論は、根本的な問題の存在を示唆している。それは「調査団の人選次第で結論は変わり得た」ということだ。筆者が取材した複数の専門家も「K断層とD-1破砕帯は同じものではない」と話している。K断層とD-1破砕帯の動き方は、大地に加わる力(応力場)が異なることが主な根拠だ。
敦賀破砕帯をめぐっては、少なくとも「一致した見解は見いだせていない」というのが妥当な状況認識ではないだろうか。
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【プロフィル】塚原晶大
つかはら・あきひろ 日大法卒。1999年電気新聞入社。エネルギー・原子力行政担当、電力業界担当、西部総局(大阪)勤務などを経て2014年4月から原子力規制・原子力政策などを担当。1975年生まれ、埼玉県出身。